からだに機器を植え込むことに対して抵抗を感じる患者は多い。しかし保存的療法で改善のみられないケースで試験的な1回目の手術で効果があれば、仙骨神経刺激療法はよい治療法だと味村医師は言う。

「何よりも通常の生活を取り戻せるメリットは計りしれません。重症例に適応ということで、そもそも対象となる患者数は少なく、私の経験では便失禁で受診した人のうち、最終的に仙骨神経刺激療法を受けるのは約2%にとどまります。しかしそれは、仙骨神経刺激療法に至る手前の保存的療法で十分に改善した人が多いということでもあります」

 便失禁は睡眠時に起こることは少ないため、就寝時に電源をオフにすれば、電池は5~7年もつ。合併症として懸念されるのは植え込んだ部分での感染だが、通常の生活を送るうえでリスクは低いという。また、しばらく刺激して症状がいったん改善されれば、電源を切ったままでも便漏れが起こらなくなるようなケースもあるという。

 一方、女性(経産婦)にみられる便失禁では、分娩時の外肛門括約筋の損傷が原因のことも多い。その場合は、外科治療として肛門括約筋形成術が選択されることもある。仙骨神経刺激療法は内・外肛門括約筋のどちらにも効果が期待できるという。そのほかにも重症例に対するいくつかの治療法がある。

 治療のゴールは患者によって、たとえば外での仕事や活動が多い人と、家にいる時間の長い人では異なる。まずは毎日漏れていたものを週に数回に、外出時にパッドを使うだけで済むようにと、徐々に便漏れの頻度を減らすことを目指し、自分が納得できる程度に近づけていくことが肝心だ。

「便失禁自体が100%改善されなくても、前述の男性のように、便失禁に対する患者さん本人や周囲の理解が深まれば、ある程度快適に生活を送れます」(同)

 便失禁は一人で悩むより、まずかかりつけ医に相談するのがいいだろう。2017年に「便失禁診療ガイドライン」が策定されたことで、薬物療法などの初期診療ができるかかりつけ医も増えているという。

 それでも十分に改善しなければ、排便機能外来を紹介してもらうといい。排便機能外来は全国で10施設程度とまだ少ないが、専門的な診断・治療によって自信に満ちた生活を取り戻す可能性は高い。(文・別所文)