8月28日に辞任の意向を固めた安倍首相。連続在任期間7年半を超えた長期政権による経済政策「アベノミクス」がもたらしたものとは。AERA 2020年9月7日号は、巻頭エッセイ「eyes」でもおなじみ、経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんに聞いた。
* * *
安倍晋三首相が8月28日、退陣を表明しました。私は安倍政権の経済政策をアベノミクスならぬ「アホノミクス」と呼び、それが続く状況を「国難」だと警鐘を鳴らし、安倍首相の一刻も早い退陣を求め続けてきました。その意味では、ほっとしているというのが正直なところです。ただ、宿敵とはいえ、闘病については健闘を祈ります。
アホノミクスを一言で説明するなら「下心政治に基づく経済政策」。安倍首相の下心とは戦後レジームからの脱却、つまり21世紀版の大日本帝国を作ることであり、彼にとって経済政策は「富国強兵」の「富国」の部分です。
本来、経済政策は国民の幸せを実現し、弱者が傷まないように配慮し、経済のバランスを保つためにある。ですが彼はそんなことは微塵も考えていない。お国を富ませるために大企業の収益を最優先する。その最たる例が「働き方改革」です。
耳触りのいい言葉ですが、彼が元々掲げていたのは「柔軟で多様な働き方」。これはつまり、労働法制によって守られにくい非正規雇用やフリーランスを、政府を挙げて増やそうという大号令です。企業にとっては正社員を雇うよりも労働コストが下がる一方、労働者にとっては待遇が下がります。安倍政権において雇用の頭数は一定レベルで維持されましたが、その質は大きく下がったのです。
世界中を見回しても、政府が非正規雇用やフリーランスを積極的に増やそうとしている国は日本だけです。トランプでさえそんなことはしていない。海外では今、フリーランスとしてウーバーなどで働く人々の労働者としての権利をどう守るかという検討が進んでいる。ところが日本では、政府が企業に高い総資本利益率を求めて尻を叩いています。企業が労働者を搾取して利益率を上げたり、かつてなら考えられないような不正に手を染めたりするのは、アホノミクスの結果でもあります。