鎌倉に生まれ、高台の家に住み、虫や鳥や草花など自然を愛してきた暮らし。
テレビで少し太めの猫と散歩する養老さんを見かけることもあった。
私も、夏に軽井沢の山荘に出かけると内臓が入れかわる気がする。新鮮で空気もおいしく、梢を渡る風の音や雨の匂いといった感覚が生き返る。
そんな時間を持つことが出来た今年、庭の樹々の間でふと人影を見る。それは、幼い頃の少女の私なのだ。コロナで時間だけはある現在、気に入った場所で自然の一員にもどってみたい。
蝉にでもいい、蝶々でもいい、一瞬、変身してみることで、人間ではなく他の生物の気持ちになって物事を考えてみたいものである。
そうすることで人間だけがえらいというおごりや独りよがりを脱することができる。経済効率性ばかり追わず、ゆとりを持って自然界の一員でいたいものである。
※週刊朝日 2020年9月11日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数
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