首都圏郊外の戸建て住宅は感染拡大以前から苦戦が続き、コロナ禍で建売業者の経営破綻が相次ぐのではないかという見方もあった。しかし、ゆとりのある間取りや密閉・密集・密接の“3密”とは遠い住環境が好感されて、6月以降は滞留していた物件が次々と売れ、「コロナのおかげで救われた」と胸をなで下ろした建売業者もいたという。

 とはいえ、中には、コロナの収束時期も見えない段階で自分や家族が巨額の住宅ローンを背負うのを躊躇(ちゅうちょ)する人もいるようだ。実際、今春からの入居を予定していた都心の新築高級マンションでは、感染拡大後、成約した物件のキャンセルが数件あったという。

 70代の自営業の男性は、親から相続した都内の自宅に妻と二人で暮らしていたが、昨年秋、近県にある勤務先の社宅に住む40代の長男から、孫の高校進学を機に男性宅近くにマンションを購入したいと相談を持ちかけられた。長男一家に付き合ってモデルルームを見て回るうちに少々予算オーバーになるが条件的には申し分ない物件に出合い、「足りない分は出してやろう」と、こちらから資金援助を申し入れた。ここ数年体力の衰えを感じていて、頼れる身内が近所に越してくるのはありがたいという気持ちもあった。幸いにも、孫は新しいマンションからドアツードアで40分という有名私立大学の付属高校に合格した。

 しかし、コロナ禍で製造業の長男の給料は大幅にカットされ、長男の妻も飲食店でのパートの職を失うことになった。経済的に窮した長男からさらなる援助を求められた男性は、「これから孫の大学進学の費用もかかるのに、住宅ローンを返していけるのか」と長男夫婦を説得し、手付金を負担する代わりにマンションの購入契約をキャンセルさせた。新居での暮らしを楽しみにしていた嫁や孫からは猛反発を受けたが、自分の判断は正しかったと信じている。(ライター・森田聡子)

週刊朝日  2020年9月11日号より抜粋

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