――自民党内の多くの派閥が、菅官房長官の支持を表明しています。“菅政権”が誕生する可能性が高そうです。
確かに菅氏が有力だと言われていますが、まだわかりません。12年9月の総裁選を覚えているでしょうか。当時、野党だった自民党ですが、与党である民主党の支持率が低迷し、次期総選挙で政権交代の可能性が高まり始めたとき。当時の総裁選は「国会議員票」199票と、党員投票による「地方票」300票の計499票で争われました。
1回目の投票では、石破氏199票(議員票34、地方票165)、安倍氏 141票(議員票54、地方票87)、石原伸晃氏96票(議員票58、地方票38)という結果でした。安倍首相は議員票では石原氏の後塵を拝し、地方票でも石破氏に倍近くの差をつけられていたのです。地方の自民党組織は、安倍首相ではなく石破氏が総裁にふさわしいと判断していたのです。5年前に政権を投げ出した安倍氏への信頼はやはり低かった。
しかし、その後の決選投票で安倍氏108票、石破氏89票という劇的な逆転劇が起きた。石破票が土壇場で安倍票に流れたようです。今回、郵便投票を行うことも可能だったのに、地方の一般党員の声は聞かないことになった。その地方の不満を受けて、先日、自民党の若手議員たちが党員投票を求める申し入れをしました。都道府県連の多くが予備選をやろうとしている。古くさい派閥の力学があまりに露骨なので、反発が生まれています。総裁選は一政党の党首選びで、国民はまったく関与できません。菅氏の当選が確実などと言われていますが、私は8年前とはまた違ったドラマが起きるのではないかと思います。(聞き手・AERA dot.編集部/井上啓太)