当然、「そんなことは辞任の理由にはならない」とマスコミや国民の厳しい批判にさらされました。それが後になって、病気だったことが判明したわけです。
今回の安倍首相の辞任理由は同じく持病の悪化ですが、第一次政権のときの辞任とは性質が全く異なる。今回の辞任には、はじめから「病気だからしかたない」という意識を国民に植え付けて、これまでの批判をかわす意図が透けてみえます。
8月24日、安倍首相は慶応病院に長時間滞在しました。それまで最長だった佐藤栄作氏の連続首相在職日数を上回った途端にです。誰がみても、「病気なのでは」と疑うのは明らか。政治家は健康が命。重い病気だということが判明すれば、政局を揺るがすことになるため、政治家は密かに通院したり、病気を隠したりするのが普通です。歴代の首相をみても、同じことが言えます。
しかし安倍首相はあえて病気が疑われる雰囲気づくりをして、その後、病を発表した。そんな安倍首相を叩く人がいれば、「病人に鞭を打つな!」とかばう人は必ず出てきます。実際、ネットなどではそのような発言もみられます。安倍官邸の作戦通りでしょう。
――病気を理由に、これまでの政策への批判をかわせると?
日本人は「病気」と「死」に弱い。「公」と「私」の区別がつけられないのです。どんなに悪人でも、「死者の悪口は言わない」というような、日本人独特の美徳がある。もちろん私も、安倍首相を1人の人間としてみたとき、病気のことは気の毒に思います。
しかしコロナ対策は「アベノマスク」に象徴されるようにうまくいかず、国民の不満と不安は支持率の低下につながりました。これからより大きな難題が内外ともにやってきます。それをこなす自信がなくなったので政権を投げ出したわけで、ことさらに「病気」を理由に辞職するのは「政治的仮病」だと私ははっきり言いたい。「病気の人を批判するな」というのは、「公」のトップである内閣総理大臣には成り立たないのです。