「こうすれば、このスパイラルから簡単に抜けられるたった一つの方法」というようなうまい方法は私には思い当たりませんが、うまくいかないやり方や考え方はあります。その筆頭は、繭子さんに「理解」してもらえば問題が解決するという考えです。
勝也さんは、「繭子さんを一番愛している」と繭子さんが納得してくれないと、繭子さんは離婚へと気持ちが動いてしまうのではないか、と思っています。そうなると、自分の愛情を繭子さんに「理解」してもらうために一生懸命説明し、場合によっては若干ウソをついてでも、うまいことを言いたくなります。小さいウソを言ってあとでバレて泥沼にはまる人は、無意識にここをすごく頑張ってしまう人です。
しかし、その努力はあまりうまくいっていません。私の理解では、それよりも、不倫相手とどこに行ったか、何をしたかを聞きたくなる繭子さんの心理こそが重要なポイントです。
繭子さんとお話しした感じでは、繭子さんは「自分が勝也さんにとって一番の存在である」という大前提が崩れてしまったショックと傷つきはもちろんあるのですが、同時に心のどこかには、自分が勝也さんにとって今も一番の存在であることを確かめたい(=それが信じられれば勝也さんと今後もやっていける(=勝也さんと今後も一緒にやっていきたい))、という気持ちがあるように思えました。
別の言い方をすれば、自分と不倫相手との間にある決定的な違いを見つけたくて勝也さんを問い詰めるのですが、聞けば聞くほど違いがないことがはっきりし、隠されても傷つき、結果的に自分より不倫相手のほうが大事なんではないかという疑念から抜けられなくなって傷つき続けてしまっているわけです。
私が想像した繭子さんの気持ちをお二人の前で話してみました。繭子さんは、少し間をおいてこうおっしゃいました。
「そうかもしれません……私、私を裏切った人だけど、勝也と生きていきたいのだと思います」
勝也さんはとてもびっくりされたようですが、先行きに光が見えたのか顔が明るくなり、
「私も、繭子と一緒にやっていきたいので、その言葉はすごくうれしいです。やってしまった過ちをどうやって償ったらいいか今はまだわかりませんけど、一生かけてでも償い続けて一緒にやっていきたいと思います。」
とおっしゃいました。
私は繭子さんに「こういうこと言われるから、本当の気持ちを言いたくないのですよね」と確認すると、繭子さんはちょっと笑いながら、こうおっしゃいました。
「あ、そうなんですね。今気づきました」
勝也さんは、繭子さんの勝也さんの言動に一喜一憂しているだけです。一番失いたくない人だからこそ、その言動に一喜一憂するのは理解できるところではありますが、勝也さんの言動に意識が集中すると「だったら、最初から不倫なんかするな」という正論の話になり、話が行き詰まってしまいます。
そもそも繭子さんが勝也さんと一緒にやっていきたい気持ちは、傷ついた気持ちの渦中では意識しにくいかもしれませんが最初からあるはずです。なければカウンセリングにもおいでにならないはずですし、徹夜で問い詰めたりしないはずです。