カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載。夫が不倫相手と「妻との思い出の店」に行ったことが発覚してショックを受けた妻。カウンセリングを受けた夫婦の言動から浮かび上がる「心理」とは?
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不倫が発覚したご夫婦のケースをお聞きしていると、不倫されたこと自体がショックで傷つくことであるのはもちろんなのですが、そのエピソードのなかに、
・一緒に行った「思い心の店」に不倫相手と行った。
・一緒に行こうと話をしていたリゾートに不倫相手と行った。
・自分たちが一緒にドライブに行った車に不倫相手を乗せた。
というのが、とげのように引っ掛かっていることが少なくありません。
「私はそんな高級な店に連れて行ってもらったことがない」という話もたまにありますが、それよりも「思い出の店」のエピソードの方が圧倒的に多いのです。値段よりも、思い出、つまり二人で一緒に行った「二人の店」という意味の方が重いのです。
そもそも、何故どこの店に行ったかがわかるかというと、多くの場合は、不倫相手とどこでどうしたのかを詳細に聞きたくなって、問い詰める方が多いからです。
不倫された繭子さん(仮名、団体職員、40代)も「真実」を知りたいという気持ちに突き動かされて、夫の勝也さん(仮名、エンジニア、40代)に、二人に何があったのかを洗いざらい話すことを求めました。最初は口をつぐんでいてた夫の勝也さんも、いつになっても収まらない繭子さんの激しい気持ちの動転と強い懇願、そして連日連夜続く追及から、言って繭子さんが楽になるなら……と出来事を小出しに語りだしました。
しかし、事実を言えば、それで納得してもらえるわけもなく、一つ言えばそれを足掛かりにさらに厳しく問いただされ、新たに知った事実で繭子さんはまた傷つき、さらに問い詰めるという形で、状況が悪化し、泥沼にはまってしまいました。
この話のジレンマは、事実を言わなければ、繭子さんは勝也さんと不倫相手の間には、繭子さんが知り得ない秘密がある(=勝也さんにとって、繭子さんよりも大切な関係がある)ということになり、事実を言えば、勝也さんが繭子さんとの思い出のなかに不倫相手を連れ込んだ(=繭子さんとの関係よりも不倫相手を選んだ)ということになります。どちらにしても、繭子さんからみて、勝也さんは繭子さんよりも不倫相手を大事にした、という「意味」に解釈され、繭子さんが傷つくことです。
ここで、勝也さんがどんなに「そんなことはない」と力説しても、繭子さんが「そうだったのか、私のほうが大事だったんだ」となることはまずありません。
なかでも特に大きな問題になってしまったのは、勝也さんは、繭子さんにプロポーズした店に不倫相手と行っていたことを知ってしまったことでした。それ以後、繭子さんは、勝也さんと不倫相手がその店で楽しそうにしている夢を見たり、フラッシュバック(といっても、実際には経験していないことですから想像ですが)が起こったりして、仕事に行くのも困難になってしまいました。