作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、安倍政権の末期になって、再び盛り上がりをみせる韓流ブームについて。女性たちが韓流にはまる理由は、ストレスなく、自分ごととして楽しめるからだという。
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ふだん電話がかかってくることのない友人から、夜更けに着信があった。なにごと? と折り返すと、「どうしても話さずにいられない」と切羽詰まった声。ついにはまってしまったの、あの沼に、なぜこうなったかは分からない、でももう後戻りはできない、むしろずぶずぶはまりたい、いったいどうしたらいい? という相談であった。
韓流である。
ちなみにこの友人はこれまで私が韓流の話をしても「すぐに記憶喪失になっちゃうヤツ?」「みんな同じ顔の人たち?」と見下す感じがあった。それが「愛の不時着」で「反省した!」のだという。大笑いしながら思う、ああ、いったいこんな電話をこの15年、何度受けてきたことだろう。「○○(韓流スター)のことを思うと火照りが止まらないので、とりあえず近所を走ってみた。この火照り、どうしたらおさまるかな」「日本語が韓国語に聞こえるようになった。この幻聴、どうしたらおさまるかな」。韓流にはまる女たちは、饒舌になる。一人では抱えきれない熱を分かちあうように、言葉が止まらなくなるのだ。
2003年の黒船、「冬のソナタ」でヨン様降臨以来、この国の女性の余暇は韓流なしには成立しないことを突きつけられてきた。どれだけの女性が韓国に通い、韓国語を学び(NHKの外国語講座で英語の次に韓国語が人気になったのだ)、情報収集のためにネットを駆使し、お金が必要だと働きはじめたことだろう。韓流は日本の女性の人生を変えたと言っても過言ではない(ちなみに新大久保の地価も上がったし!)。
その一方で、この15年は嫌韓をむき出しにした言説が苛烈化し、嫌韓を隠さない書籍が書店に並び、街ではヘイトスピーチを厭わないデモが繰り広げられる時代でもあった。特に2011年に韓流ドラマを流すフジテレビへの抗議デモが起きたあたりから、昔一緒に「宮廷女官チャングムの誓い」を見ていた夫に「もう新大久保に行くな」と止められたり、露骨にイヤな顔をされたりするので夫が寝てからこっそりK -POPの動画を見ているのだと教えてくれた女性もいる。何より悲しかったのは「韓国がイヤな国だと分かったから、もう楽しめない」と韓流ファンをやめるという女性の話を聞いたときだ。