コストカットで社員が自腹を切りつつも、社長は高級車を乗り回す――川上恵子さん(仮名・50代)が働く都内の保育園運営会社Xでの光景だ。保育材料費だけでも3歳以上の園児で1人当たり月1809円、3歳未満で同2978円が公費で出ているにもかかわらず、園児1人につき月2千円分で保育材料のほか、トイレットペーパー類やアレルギー用のミルク、水回りの修繕費を賄わなければならなかったという。そして保育士たちは、コロナ禍でさらに追い詰められている。保育士たちの苦悩をジャーナリストの小林美希氏がリポートする。
このような度を越えたコストカットは、営利目的ではないはずの社会福祉法人の一部でも同様に行われている。東京23区にある認可保育園でパートとして働く、無資格の保育補助者の田中寛子さん(仮名・50代)は、コロナ禍で休業を強いられた際、千円の時給を4割カットされた。寛子さんが満額補償を求めても、園長は「報道やネットで書かれていても、うちは当てはまらないのよ。運営費が100%出るなんて嘘じゃないの」と、とぼけたという。
「とにかくケチなんです」と寛子さん。園が用意するボールペンは保育従事者1人につき1本。園児が使う色鉛筆は100円ショップで購入。夏、室内の気温が30度を超えてエアコンをつけると、園長が「お金ないから」と言って切っていく。一方で、コロナの感染予防対策のための補助金が50万円出るとなると、1台数万円するダイソンの空気清浄機能付き扇風機を大小合わせて9台も購入。ひも付きの補助金だと大盤振る舞いだ。
2カ月にわたって園長と交渉し、役所からも園が注意されたことでようやく満額支給となったが、寛子さんは、「こんなに大変な思いをするなんて」と、あきれ顔だ。
東京大学大学院が実施した新型コロナウイルス関連の調査によれば、コロナ禍での休業中、保育園従業員で給与の全額が補償されたのは、常勤職員で約8割、パートでは約5割に過ぎなかった。一方、パートで補償が「ゼロ」だったのは常勤の倍で、約16%だった。