「弁護人ではない。“だった”人。はははっ」。突然の弁護団の解任だった。公職選挙法違反(買収など)の罪に問われている前法相の河井克行被告と妻の案里被告の8回目の公判が9月15日、東京地裁であった。閉廷後、記者を前に、克行被告の弁護団だった一人の弁護士がそう自虐的に切り出した。
この日、マスクをした克行被告は少し気の抜けたような眼をして入廷。同じくマスクをした案里被告は笑顔を作っているように見えた。公判では検察側の証人尋問があり、公設秘書が「(参議院選の公示前の集会は)案里氏を当選させるための依頼だと思っていた」などと証言。公判は正午過ぎに終わった。
そのわずか15分後、克行被告は弁護団に対し、「申し訳ありませんが、解任させていただきます」と淡々と話したという。
解任理由には公判に対する焦りもあったようだ。今回は100日以内に判決を出すことが求められる「百日裁判」。多い時には1週間に4回も期日が入るタイトな日程だ。克行氏は、勾留中で弁護人との接見の時間が十分にとれず、証人に対する反対尋問のための準備が十分にできない状況があった、という。
そのため、克行被告は弁護士を通して3回、保釈を請求。いずれも却下され、4回目は自分で請求したがこれも退けられた。弁護団にいた一人はこう語る。
「請求の書面には、このまま勾留が続いたら自分の防御権が認められない。証拠隠滅や逃亡は考えていない。臨時国会も召集される可能性があるので、国会議員としての責任を果たしたい、というようなことが書かれていた」
検察関係者も今回の解任には「まさか全員解任するとは」と驚きを隠さない。16日からは、夫妻から現金を受け取ったという広島県議らの証人尋問が行われる予定だった。地元議員らが金銭の授受についてどう証言するかに注目が集まっていた。
「明日からの証人尋問の予定は中止。弁護士がいないと法廷は開けない。解任は引き延ばし作戦としか言いようがない。あれだけ時間をかけて打ち合わせしたのが水の泡だ。法相までやった人がこんなことをするとはね」(検察関係者)