浜矩子/経済学者、同志社大学大学院教授
浜矩子/経済学者、同志社大学大学院教授
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菅義偉首相 (c)朝日新聞社
菅義偉首相 (c)朝日新聞社

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 アベ首相のアホノミクス時代から、スガ首相のスカノミクス時代に移行した。「アベノミクスの継承」を掲げたスカノミクスは、どこまで独自の内容がスカスカで、どこまでアホノミクスの完全コピペとなるのか。それは、まだ判然としていない。

 ただ、スカノミクスの大将がどんな感性の持ち主なのかについては、少しヒントがある。なぜなら、彼は、かの権謀術数の代名詞男、ニコロ・マキャベリの信奉者だ。マキャベリは、ルネサンス期の政治思想家だ。16世紀のフィレンツェ共和国で外交官を務めた。菅首相は、自著『政治家の覚悟/官僚を動かせ』の中で、「マキャベリの言葉を胸に歩んでいく」と書いている。

 そこで、マキャベリの言葉にどんなものがあるのか、調べてみた。まずは、「ある事実を言葉をもって隠蔽する必要が生じた時には、バレないように要注意だ。バレた場合に備えて、直ちに使える反論を用意しておかなければならない」(筆者訳、以下同様)というのが出てきた。「バレた場合に備えて……」のくだりが、鰻っぽくヌルヌルと記者の質問をかいくぐって行く菅官房長官(当時)のイメージに重なる。

 とても怖いマキャベリ発言も発見してしまった。「国家を造り、その法体系を整備する者は、万民が邪悪だと想定しなければならない。彼らを野放しにすれば、彼らは常にその悪しき魂に従って行動するのである」。菅首相はこんな認識を「胸に歩んでいく」つもりなのだろうか。

「人々は寛大に取り扱うか、壊滅させるか、いずれかだ。なぜなら、彼らは軽傷を負わせるだけなら反撃して来る。致命傷を負えば、それは出来ない」。敵味方を徹底的に仕分けしようというわけだ。仕分けした上で、敵と目した者たちは情け容赦なく片付けてしまえというのである。これも、座右の銘としては、いかにも過激だ。スカノミクスの大将は、どうも、かなり冷酷無比な素顔の持ち主らしい。

「宰相は狐であり、ライオンでなければならない。罠を回避し、狼どもを怯えさせるためだ」。菅首相にライオンを見るのは少々無理がある。だが、実に狐的ではある。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2020年9月28日号