菅総理が公的医療保険の適用を打ち出し、注目を集める不妊治療。「今や15人に1人が体外受精児」とマスコミが報じる一方で、驚くべき残念なデータが存在する。卵子と精子を受精させて子宮へ戻す「体外受精」によって「実際に赤ちゃんが生まれる確率(=採卵周期あたりの生産率)」は、6%にも満たず、過去最低を更新し続けているのだ。
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日本産科婦人科学会の最新報告によれば、体外受精の治療件数は年々増え、2018年は過去最多の45万4893件に対し、生まれた赤ちゃんの数もこれまでで最も多い5万6979人。しかし、最終的に出産できた数を示す「生産率」は、ここ10年で下向きに推移しており、2018年はわずか5.7%と過去最低だった(※出典1、PDF6枚目)。
医療の質が下がってきているから? と思う人もいるかもしれないが、そうではない。日本では、「出産に結びつかない体外受精」が大量に行われているのだ。背景にあるのは、患者の年齢が高いことと、「自然こそが尊い」とする日本特有の価値観だ。
不妊治療専門の東京HARTクリニック(東京都港区)に勤め、20~30代への啓発にも取り組む小柳由利子医師は、「体外受精の生産率から考えると、本来は35歳程度をめどに治療がすすめられるべきですが、年齢別の治療件数をみると日本のピークは40歳(出典1、PDF4・5枚目)。理想の治療年齢と実際の治療年齢に5歳ものズレがあり、ここに日本の不妊治療の深刻な問題がある」とみる。
「芸能人の高齢出産のニュースを聞いて、『40まで大丈夫』と思っている患者さんが多いのですが、40代の場合、体外受精で妊娠できる人は治療全体の1~2割。一般的に思われているよりも、現実は厳しいのです」(小柳医師)
不妊治療の最後のステップである体外受精だが、「体外受精まで進めば妊娠できる」という楽観的な見方は幻想にすぎない。
また、小柳医師は、不妊の知識向上と並んで「女性が40歳までに安心して産み終えることができる社会づくりが必要」と訴える。