「育児は一人ではできません。17時に退社しても昇進に影響しないとか、子どもの発熱で休んでも誰かが補えるようにチームで仕事するとか。制度を変えるだけでなく、社会全体で子育てする風潮になれば、キャリアのために出産を遅らせていた女性も早く産もうと考えるでしょう」

 さらに、今回の日本産科婦人科学会のデータで注目すべきなのは、45万件超という体外受精の実施件数の多さだ。 

 少し古いデータではあるが、各国の体外受精の実績を調査する国際組織「ICMART」によると、2016年の日本の体外受精の実施件数は44万7763万件と、世界第1位(出典2、中国をのぞく)。不妊治療先進国といわれる2位のアメリカの約2倍である。
 
 小柳医師は、この点について「日本では、体への負担は少ないが、妊娠率の低い『自然採卵』が多く行われています。『全胚凍結周期』(=受精卵を移植せずに凍結保存する方法)を除いて集計している2007年以降も、生産率が減り続けているのは、結果につながらない採卵が増えている、ということにほかなりません」と指摘する。

「薬で卵巣を刺激して、一度の採卵で複数の卵子を確保する『調節卵巣刺激法(高刺激法)』が世界標準の治療なのに、日本人は『自然』を好むため、自然排卵による周期(低刺激法)で採卵するクリニックが人気です。しかし、その方法による妊娠率が、刺激による採卵法より大幅に劣るのは、海外の研究から明らかです。クリニック側は数字を公表しませんから、一般の人が知るのは至難の業でしょう。結果、採卵を何度も繰り返すことになり、刺激して複数の卵子を採れば早く妊娠できたのに時間をロスする方が多いのです」 

 前述した通り、不妊治療は時間との闘いだ。小柳医師は、「自然採卵」による治療を、「複数の卵子が育ちにくいタイプなどには有効」としたうえで、「あくまでオプション治療であるべき」と主張する。ちなみに、イギリスのガイドラインでは、医師は自然周期治療を提供しないように勧告している。

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日本には治療のガイドラインがないのも問題