■    地震の前兆?三浦半島の活断層の地点とは一致せず

 炭化水素の化学、そして身の回りのどこで使用されているかの話はさておき、今回の異臭騒ぎの原因と発生源を考えなければなりません。しかし、現時点において、異臭の原因物質が上記の炭化水素であると断定されたわけではありません。なぜならば、今回分析に使われたガスクロマトグラフ質量分析計では検知できない、同定(化合物を特定すること)できない他の物質の可能性もあるからです。

とはいえ、ここまでのデータを基に原因と発生源を考えてみましょう。

(1)    石油化学工場、石油タンク、タンカー説
 これらの炭化水素類は、石油化学工場で原油から製造・使用されているので、発生源として、横浜・川崎の湾岸コンビナートにある石油化学工場、また、石油タンク、タンカーが考えられます。安全管理が厳重とはいえ、漏れがあるかもしれません。ちなみにタンカー内のガス類は空気中に放出するそうですが、届け出が必要とのことです。

 なお、今回の異臭大気の分析で2倍以上検出されたというエチレンは、ガソリン、正確には粗製ガソリン(ナフサ)を分解(クラッキング)することにより製造されています。この工場が湾岸コンビナートにあるかもしれません。

(2)     ガスハイドレート説(地殻変動説)
 ガスハイドレートとは、水分子が作る12面体、16面体、20面体のかごの中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、海底深くに存在します。メタンハイドレートが代表的なもので、よく知られています。

 ブタン、ペンタンなどがハイドレートを形成しているかどうかは確かではありませんが、海底からこれらの炭化水素が表出しているとすれば地殻に何らかの異常が発生したことが考えられます。そうなれば地震との関係が心配になります。インターネット上では「大地震の前触れ?」などの声がありますが、三浦半島の活断層は異臭の通報があった地点とは一致せず、地震の前兆とは考えにくいようです。

 ガスハイドレート説であるならば、メタンガスが検出されなければなりませんが、今回の分析では検出されていません。ただし、メタンの沸点が低いため、検出不能だったかもしれません。

 一方、ガスハイドレートとは関係なく、地殻変動によって何らかのガスが発生することは考えられます。関東大震災(1923年)の際に三浦半島で異臭が発生したとの記述、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)でも異臭があったとの報告が気になるところです。

暮らしとモノ班 for promotion
防災対策グッズを備えてますか?Amazon スマイルSALEでお得に準備(9/4(水)まで)
次のページ
青潮説は疑問