もうひとつ。70年代以降のアイドルポップス界を象徴する3大歌姫、山口百恵・松田聖子・中森明菜のいずれも筒美作品を歌っていないという事実は、裏を返せば、いかに「作曲 筒美京平」が磐石な王道であったかを物語っているのではないでしょうか。あれほど圧倒的な成功を収めていた作曲家を敢えて起用しない路線を打ち出し貫くことで、それまでになかった強大なアイドル像を作り上げるに至った。そう考えれば聖子も明菜も「作曲 筒美京平」の産物と言えるのかもしれません。音楽シーンが常に一丸となって「筒美京平」のサウンドを意識し戦っていたからこそ、百恵も聖子も明菜も、そしてチェッカーズもおニャン子も光GENJIも、独自の比類なさを発揮できた。

 筒美京平。その姿の見えない存在は、日本の音楽シーンに多様な才能と可能性と彩りを導きました。かつてインタビューで「とにかくメロディーと展開を詰め込むサービス精神こそがポップスのすべて」というようなことを語っていた筒美さん。「作曲 筒美京平」は今後の世代や時代にも、心躍らせる「原風景」であり続けることでしょう。

週刊朝日  2020年10月30日号

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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