自身のブレーンを集めた成長戦略会議で発言する菅首相。異論を認めず、人事権を使って排除することをためらわない強権的な体質が目立つ (c)朝日新聞社
自身のブレーンを集めた成長戦略会議で発言する菅首相。異論を認めず、人事権を使って排除することをためらわない強権的な体質が目立つ (c)朝日新聞社
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 人情派のパンケーキおじさん。菅首相のそんなイメージ戦略が早くも破綻している。見えてきたのは権力をかさに着て異論を封殺する戦前戦中的な政治姿勢だ。AERA 2020年11月2日号では、菅首相が学術会議の候補の任命を拒否した問題について、専門家らに話を聞いた。

【写真】任命拒否に関与していたと言われる官邸官僚はこの人

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 出だしからつまずき、めっきが剥がれかかっている。あれよという間に政権を手中にした菅義偉首相のことだ。たたき上げで苦労人の「人情派」といったイメージとは対極の、冷徹で強権的な本質が早くも顔をのぞかせてきた。日本学術会議が推薦した候補6人を任命せず、故・中曽根康弘元首相の内閣と自民党による合同葬に際して教育現場に弔意の表明を求めたやり方が波紋を広げている。

■露骨に学問の自由侵害

「憲法23条は『学問の自由は、これを保障する』という一行だけで、学者の研究成果や発表は自由に認めるということを明確に規定している。これについて戦前のように政府が『けしからん』ということはできませんよということです」

 終戦時に12歳だった政治評論家の森田實さん(88)は戦中、戦後の学術と政治の在り方の生き証人だ。それゆえに安倍-菅ラインで進んできた学問の自由の侵害に敏感に反応する。

「厳密に言えば、候補者案に同意せず補充を見送るという安倍政権のやり方も憲法違反ですが、6人の排除が表に出た菅内閣のやり方は露骨。しかし、明らかな憲法23条違反になるので、彼らが政府批判をしたから外したとは言えない。しかも道徳的、個人的な欠陥を理由にすることもできない。なぜなら学術会議が推薦する段階でそういう人は除外するはずですから」

 日本学術会議は国民生活に科学を反映、浸透させることを目的に1949年1月、首相の所管のもと、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立。約87万人の科学者を代表するいわば「学者の国会」として政策提言などを行ってきた。定員210人、任期は6年で再選はできず、3年ごとに半数を改選することなどが日本学術会議法で定められている。

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