「核酸ワクチンは安価で早く作れるのが長所ですが、mRNAは不安定で壊れやすいという問題があります。このため、マイナス60~80度で凍結保存する必要があるというのです。インフルエンザのワクチンは4度で保管できるので冷蔵庫でいい。けれども、マイナス80度の保管室など一般の診療所にはないから、身近なクリニックでワクチン接種が受けられないことになります」
そもそもウイルスの遺伝情報を利用した、mRNAやDNAワクチンは、これまで人体用に承認された前例がなく、受ける側も慎重にならざるを得ない。
「米モデルナが開発中のワクチンもmRNAですが、同社の関係者は『新しいワクチンは何を起こすかわからないから、しばらくは打たない』と話していました」(上医師)
それでも新型のワクチン開発に着手せざるを得ないのは、従来型のワクチンでは早急な実用化が難しいからだ。
従来型のワクチンには、生きたウイルスの毒性を弱めて体内に入れる「生ワクチン」と、感染力を失わせたウイルスを使う「不活化ワクチン」がある。インフルエンザには不活化ワクチンが使われている。ウイルスそのものを使うので、ウイルスを大量に培養するのに長い時間がかかり、感染を防ぐための厳重な施設も必要になる。
日本では塩野義製薬が組み換えタンパクワクチン、第一三共がmRNAワクチン、アンジェスがDNAワクチンと、それぞれ開発に取り組んでいる。だが、アンジェスは初期試験段階で、塩野義製薬と第一三共にいたっては試験にも入っておらず、世界の後塵(こうじん)を拝している状態だ。製薬会社関係者がこう語る。
「世界のワクチン市場で厳然たる力を誇っているのは米ファイザーとメルク、仏サノフィ、英グラクソ・スミスクラインなどです。これらメガファーマから見れば、塩野義や第一三共は小規模ファーマでしかありません。薬の開発はできますが、ワクチンのように数万人単位の大規模な第3相試験を行うには相当な企業体力が必要ですから、日本企業には難しいのです」