「それまで自分で判断する機会がほとんどなかった学生は、薬物使用が自分や周囲に与える影響について考えることができず、周囲に流されがち」(同)
■教員もプロも厳しい道
一方で学生たちの絶望感も垣間見える。前出の三つの運動部は、どこも大所帯だ。近大サッカー部60人程度、日大ラグビー部150人、東海大野球部は約130人。どの競技も十数人から20人しか試合に出られず、1軍をトップに4軍、5軍の階層社会で、「どうせオレなんて」と自暴自棄になりやすい。
将来への不安も大きい。昭和の頃はまだ可能性があった体育教員への道は、少子化と専科時間の削減で狭き門だ。2020年度の公立高校体育教員の採用試験合格倍率は、東京都こそ6.8倍だが、福島59.0、群馬44.5と地方はいたって厳しい。終身雇用が約束された実業団スポーツは廃れ、プロになれるのはひと握りだ。
自分で考え判断することが苦手な大学生が少なくない実情があるのに、指示命令に従わせるだけで、主体性を引き出す指導への転換が図れていない。つまり、大人たちが歩んできた道とは違う道なのに、歩き方は古いまま。アスリート教育が時代にミスマッチなのだ。
関西圏のある競技の強豪高校顧問は、大学側にこう注文を出す。
「薬物を含め学生の身の回りにある問題をミーティングで話し合い、部内に薬物を許すような土壌がないか、学生に考えさせる時間を定期的に作ってほしい」
前出の安藤さんによると、大麻は習慣的に使用することでさらに強い刺激を求め、他の薬物へも移行しやすいという。
大学スポーツから大麻を根絶させるために、大学だけが努力すればいいわけではない。安藤さんはこう力を込める。
「小中高と、圧迫するのではなく主体性を持たせる指導に転換し、自立した人間育成を目指すべき。薬物使用という社会規範を破った大学生を処分し非難するだけでは、再発防止はできない」
(ライター・島沢優子)
※AERA 2020年11月2日号