エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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10月20日、同性愛をめぐる発言で東京都足立区の白石正輝区議が謝罪。区議会開始前には区役所前に区議の発言に抗議する人たちが集まり、声を上げた (c)朝日新聞社
10月20日、同性愛をめぐる発言で東京都足立区の白石正輝区議が謝罪。区議会開始前には区役所前に区議の発言に抗議する人たちが集まり、声を上げた (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「いちいちやかましい!」「悩むだけ無駄!」。豪快、痛快、ぶった切り。“ポリコレを笑い飛ばす”物言いはいつの時代も人気ですが、私は好きじゃありません。その一言で、これまでどれだけの人が口をふさがれてきたか。そんなのは喝破でも達観でもない、単なる思考停止です。

 職場にもいるでしょう。ジェンダーやハラスメントの問題に悩む人に「細かいことでクヨクヨするな。人生なんてそんなもんだ」と説教する、声の大きな人。周囲は同調し、悩みを打ち明けた人はバカにされて、口をつぐむ。嫌な感じだなあと思いながら、傍観している人もたくさんいるはずです。力関係上、何も言えなかった悔しい経験は、私にもあります。

 でも、ここ数年でそれが変わりつつあります。毎日のようにジェンダー関連のニュースが報じられ、企業統治や投資の世界でもジェンダー格差の是正やハラスメントへの対応が重視されています。「ごちゃごちゃうるせえ」は、もう主流の意見ではなくなりました。そんな言葉に出合う度に、昨年出した対談集『さよなら!ハラスメント』で伺った、精神保健福祉士・斉藤章佳さんの“日本は男尊女卑依存症社会”と、政治学者・佐藤信さんの“教育と淘汰(とうた)”という言葉を思い出します。

 やめたくてもやめられなくなっている男尊女卑社会を変えるには、いくつもの呪いを解く必要があります。学校や職場で常態化していたジェンダーバイアスやハラスメントが問題視され、次々と呪いの正体が明かされつつある今、いつまでも呪詛(じゅそ)の言葉を吐き続ける存在は、時代から見放され淘汰される運命にあります。最近私は、そうした淘汰圧を高めるためにも、これから成長する人たちにエネルギーとリソースを割く方が建設的だと思うようになりました。もはや看取(みと)りの心境になりつつあります。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年11月2日号