ホワイトハウス周辺は、投開票日前後の暴動に備え、店舗が板を張る準備を進める。暴動の規模によっては休業が長引く/10月28日、ワシントン(撮影/大和田三保子)
ホワイトハウス周辺は、投開票日前後の暴動に備え、店舗が板を張る準備を進める。暴動の規模によっては休業が長引く/10月28日、ワシントン(撮影/大和田三保子)
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 新型コロナウイルス感染の第3波最中の米大統領選。コロナは嘘かまことかを選ぶ様相も呈している。前代未聞の投開票日を迎え、米国はどこに進むのか。AERA 2020年11月9日号から。

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「新型コロナウイルスの季節に突入したが、私たちは、間違った方向に向かっている。今こそ、何かしなければならない。入院者数は増え続けている。死者も増えるということだ」

 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長、アンソニー・ファウチ博士は、連日テレビに出演し、警鐘を鳴らす。

 新型コロナは、11月3日の投開票日まであと5日という10月29日、全米50州のうち41州で勢いを増している(米調査機関COVIDトラッキング・プロジェクトによる)。感染者数は累計890万人と国民の37人に1人が感染した。直近2週間に比べ1日の平均感染者数は41%上昇した。しかも、トランプ大統領と民主党候補のバイデン前副大統領が激しく選挙戦を繰り広げる注目の3州で感染が急増している。2016年選挙で、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官が僅差(きんさ)でトランプ氏に敗北した中西部のミシガン、ウィスコンシンと東部ペンシルベニアの3州は、感染者が10月19日の週に比べ、それぞれ25%、23%、33%増加した。

■両極の選挙戦を展開

 この惨状を2人の候補は、180度違う角度から見て、全く異なる選挙戦を展開する。

 トランプ氏は、数千~数万人を集める集会を1日に3~5回も開き、こう言う。

「(新型コロナの感染は)競馬場の最終コーナーにさしかかったようなものだ。見てごらん。今は完璧だ。最終コーナーのカーブにいるんだ。このウイルスに打ち勝つ間際だ」(10月27日)

 マスクもせず、社会的距離も取らず詰めかけた支持者は「フォー・モア・イヤーズ(あと4年)!」と何度も歓声を上げる。

 一方のバイデン氏は、新型コロナへの配慮から、オンライン集会や駐車場集会、支持者の家の庭などの小規模な集まりを続けている。駐車場集会では、支持者が乗車したままバイデン氏の演説を聞き、声を上げたい時はクラクションを鳴らす形式で、「密」と人びとが大声を上げるのを避けている。

「私が勝ったとしても、この感染爆発を終わらせるには、かなりの労力が必要になる。私は、スイッチみたいに感染爆発を終わらせるなどと間違った公約をして、立候補しているのではない。私の政権は、適切な処置を一から始める。私の政権の決定は、科学が導くものになる」(バイデン氏、10月28日)

 世界最大の感染地であり、抑制の目処も立たない米国。そこで、トランプ氏を信じて投票するのか、良識と科学を信じてバイデン氏に投票するのかという「コロナ選挙」の選択。投票率の予想もままならず、投票結果は未知の領域にある。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

※【米大統領選、結果は「1カ月先」の可能性? トランプ敗北なら「不正」疑い再集計要請か】へ続く

AERA 2020年11月9日号より抜粋