ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、共に暮らした生き物たちを振り返る。
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昼、目覚めると、いつもオカメインコのマキが枕の隅にいる。マキはわたしの頭のそばで寝るのが大好きだから。
「マキ、おはよう」
マキを肩にとまらせて布団を出る。窓際の水槽のところへ行ってサワガニに餌をやり、グッピーの稚魚をすくう。毎日、十匹はすくってほかの水槽に移すから、いまは四千匹弱のグッピーが八つの水槽で泳いでいる。そろそろまた、新しい水槽を買ってこないといけないようだ。
グッピーを飼いはじめたのは十年ほど前、ミナミのゲイバー(カウンターに熱帯魚の水槽を並べている)で七、八匹をもらって帰ったのがきっかけだった。それが次々に稚魚を産み、わたしは水槽を買う。窓際は南向きで陽あたりがいいから水草も増える。それをときどき間引きして庭の池に入れたりもする。池の金魚は雑食性だから水草をよく食う。
子供のころから、いつも生き物がそばにいた。わたしが三歳のころ、母親が隣の家で生まれた雑種の仔犬をもらってきた。背中に黒い筋があったので“背黒”→“セグ”と名付けたが、これがほんとうに賢い犬だった。わたしが父親の機帆船で五歳まで育ったころはずっといっしょに遊んだし、夏、船の近くで救命ブイをつけて泳ぐようなときは、船上からセグがわたしを見ている。わたしはよく溺れる真似をした。セグ、助けて──と水面をバシャバシャ叩くと、セグはデッキを走りまわって、大変だ、と吠える。誰もデッキに出てこないのを知ると、セグは意を決したようにデッキから三メートルも下の海にダイビングし、泳いでわたしを助けにくる。わたしはセグの尻尾をつかんで引っ張ってもらったが、何度溺れる真似をしてもセグは助けにきてくれた。
わたしと妹が喧嘩をしたとき、セグはどちらの味方もしなかった。あいだに入ってきて、前足でふたりを押す。困ったような表情がおもしろくて、わたしと妹はよく喧嘩のふりをした。どうにもおさまらないと知ると、セグは母親を引っ張ってきて、ふたりを分けろ、といった。