私が現在住んでいるのは共和党優位のアラバマ州。人々は自宅の前に立てるヤードサインや旗、車に貼るステッカーなどで支持政党をアピールするのですが、町ではトランプ-ペンスの文字を多く目にします。政治の話をするときは、トランプ支持者という前提です。対して4年前に住んでいたワシントン州シアトルは、民主党優位の地。2016年の選挙戦中はほとんどヒラリー-ケインの文字しか見ず、ヒラリー支持者である前提で話をしました。

 2020年アラバマ州の一般得票率はトランプ約62%、バイデン約37%。2016年キング群(シアトルのある群)の一般得票率はヒラリー約69%、トランプ約21%。つまり全員が全員優位の政党を支持しているわけではありません。考えてみれば当然ですが。しかし劣位の支持層は口をつぐんでしまうので、表向きには「アラバマにはトランプ支持者しかおらず、シアトルにはヒラリー支持者しかいない」ように見えます。

 劣位の支持層が口をつぐんでしまうのは、政治的主張の相違が、もはや世界観や人間性の相違と捉えられる空気があるからです。民主党支持者と共和党支持者で、見ている現実がまったく違う。民主党勢は共和党勢を「教養のないレイシスト」だと、共和党勢は民主党勢を「高慢ちきな嘘つき」だと思っている。2016年以前からあったこの分断は、ここ数年で確実に深まりました。

 今も思い出すのは、2016年の選挙期間中のことです。ヒラリー支持の親戚ケリー、そして彼女の両親と食卓を囲んだのですが、ケリーが熱心にヒラリーのすばらしさを語る傍らで、彼女の親は「やれやれ、困ったもんだ。うちは代々共和党支持なんだがね」と苦笑いしていました。2020年の今、ケリーは「いくら説得しても親の目を覚ますことはできなかった」とため息をつき、彼女の親は「政治に話が及ぶとケリーは感情的になるから、話すのはやめた」と肩を落とします。親子や兄弟、恋人や夫婦で政治的主張が異なることはままありますが、その場合「大切な人と言い合いをしても疲弊するだけなので、政治の話は避けましょう」と、『I Love You, But I Hate Your Politics』の著者で心理セラピストのジーン・セイファーは勧めています。でも、お互い口を閉ざしたままで、この分断は埋まるのでしょうか。これからの新しい年は、今までとやり方を変えなければいけないのではないか。子どもたちにも、分断ではなく温かい理解ある世界を見せなくてはなりません。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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