政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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新型コロナウイルスの感染者の累計総数が15万人を超えました。第3波とされる現在、感染者数はこれまでとは比べものにならないペースで急増しています。第3波の特徴として、死者や重症者数が過去最多を更新していることは重く見なければいけません。
ここにきて北海道、大阪と看護師不足による協力要請が続いています。大阪ではコロナ対応による看護師不足のために、若年がん病棟が一時閉鎖になるという危機に陥りました。現場は人がいてはじめて動くものです。こうなるであろうということは、半年前から予見できていました。第1波から第2波にかけてやっておかなければならなかったことのツケがまわってきているといっても過言ではないでしょう。
これだけの時間があったにもかかわらず、エネルギーは投下されてきませんでした。専門家会議からも何度もアラートは出されていたにもかかわらず、国と自治体の間の力関係や責任の所在、権限の範囲が明確でないため、すべてが「無作為」に放置された状況でした。これが続けば、日本も欧米とは言わないまでもそれに近い状況にならないとも限りません。
まず医療崩壊を防ぐために早急にしなくてはいけないのは、人員の手当てをはじめとする医療現場への様々な財政支援です。さらには医療従事者やその家族に対するいわれのない風評被害を防ぐこと。医療現場で働く人に明確な社会的保護を与えないといけません。
2番目に必要なのは、権限と責任の所在を自治体と国とで明確に共有し、総合力を発揮できるような組織系統を作ることです。自治体と国との権限配分、そして自治体が時短や営業自粛を言う場合に、地方交付金をどれくらいの裁量権で使えるのかといった窓口を広げるべきです。
3番目は、国会もしくは記者会見で菅首相が明確なメッセージを国民に述べ、この曖昧模糊とした状況を払拭すべきです。観光地や飲食関係が苦しい状況にあるならば、しっかりとした補助をするしかありません。
これらをいますぐにやらないと12月中旬から1月にかけて日本はさらに大変な状況になりかねません。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2020年12月14日号