ただ、夫婦関係においては、どちらが一方の主張が正しいということはなく、一方の主張を聞くだけでは不十分だろうとは感じていました。また、当時から当事者団体の中では「相手の同意なく子どもを連れて家を出ることは実子誘拐だ」「外国では犯罪行為になる」などの主張も多く聞かれたのですが、これには違和感を持っていました。というのも、欧米では共同親権や共同養育に関する法整備が進んでいて、妻側が一方的に家を出なくてもいいような仕組み作りができている。親権制度も違う日本では「連れ去り」の定義自体が異なります。日本では、どうしても逃げなければいけない状況にある妻子を救済する仕組みが不十分だという思いも抱いていたのです。

 そんなタイミングで「わが子に会えない」について「cyzo woman」から取材を受けたのですが、そのインタビューが「なぜ一方的に男性側の主張だけを掲載したのか」とケンカ腰だったんです(笑)。編集者たちと話をする中で「じゃあ、逆の立場から女性側のインタビューを掲載する連載をしよう」ということになり、妻側の話を聞く企画がスタートしました。

――それまではご自身の体験も含めて「夫側」に共感する部分も大きかったと思いますが、「妻側」の話を聞いていくことで、新たな発見や心境の変化はありましたか?

西牟田:取材に応じてくれた16人の女性はさまざまな理由でシングルマザーになっていました。直接的なDV被害にあった人もいれば、夫が精神的な病にかかってしまって別れざるを得なかった人、義母との関係が悪化した末に離れ離れになった人など、本当にさまざまです。取材前、僕はもっと元夫に対して憎しみのような感情を持っていて「絶対に会わせたくない」と思っている女性ばかりなのかと思っていました。でも、少なくとも取材した女性たちは「離婚後も元夫には子どもに会ってほしい」と語る女性が少なくありませんでした。「会わせたくない」という女性にしても「面会交流はしなくちゃいけないもの」という認識をほとんどの方がお持ちでした。これは意外でした。じゃあ、なぜ夫を置いて子どもを連れて出ていくという行動に出たのか。もちろん理由はいろいろですが、僕なりに解釈すれば、女性たちが生き残り、そして幸せになるための「究極の選択」だったということです。このままでは子どもと自分の生活がダメになってしまう、ここから抜け出して一歩でも幸せになるにはどうしたらいいか。それを考えて、考え抜いた選択が「子どもを連れて逃げること」だったということです。もちろん、自分の感情に任せて元夫に会わせることを拒否している女性も一定数はいると思います。でも、世の中のシングルマザーの多くはもっと寛容なのではないかと。たとえ元夫とは会いたくないと思っていても、子どもにとって必要な存在であることは十分に理解しているのではないか、と思えるようになりました。

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共同養育の価値観は広がりつつある