JAXAはこのクレーターを「おむすびころりんクレーター」と命名。近くにあるおにぎり形の「おにぎり岩」が今にも転がり落ちそうなためで、19年の「ユーキャン新語・流行語大賞」候補にもノミネートされた。選出はされず知名度はイマイチだが、人類にとって非常に大きな足跡だ。
小惑星探査の意義について荒川さんはこう説明する。
「地球の場合、46億年前の太陽系ができた頃の物質の情報は地球内部でマグマになってドロドロに溶けたり、蒸発したりして全て消え去ってしまっています。惑星の成長過程を知るためには46億年前の情報を保持し、太陽系の惑星のさまざまな成長段階を凍結した『タイムカプセル』ともいえる小惑星を調べる必要があるのです」
■2度目の着陸に中止論
はやぶさ2は19年2月の1回目の着陸でリュウグウ表面の砂などのサンプルを採取。同年4月に人工クレーターの生成に成功した。ところが、掘り出した地下サンプルを採取する2回目の着陸にあたって、JAXA内で大激論が巻き起こった。国中均所長が「試料はもう採れている。リスクを冒してまで2度目の着陸をする必要はない。帰還させよう」と提案したのだ。
理由は大きく二つ。一つは、リュウグウの表面が予想以上に岩だらけだったことだ。直径100メートルの平坦な場所を探して着陸する計画だったが、実際に見つかったのは直径6メートル。着陸には、上空20キロから甲子園球場のマウンドに降りられる精度が必要だった。
もう一つは、リュウグウの成分が「お宝過ぎた」ことだ。そもそもはやぶさ2がリュウグウに向かったのは、生命の起源に連なる炭素などの有機物を多く含んだ「炭素質コンドライト隕石」という隕石との類似が予想されたからだった。ところが、はやぶさ2が光センサーで表面を観察したところ、地球上に存在するどの炭素質コンドライト隕石とも一致しない成分であることがわかったという。
「隕石として地上にまだ降ってきていない物質なのか、大気中で変容する前の成分を保持しているのかはわかりませんが、いずれにせよ、1回目の着陸で回収したサンプルは初の地球外物質である可能性が高いのです」(荒川さん)