日本の貿易赤字が続く中、一部の政治家は、「その主原因は燃料費の輸入が増えていることだ」と主張している。ニュースキャスターの辛坊治郎氏は、原発最稼働の気運を高めたいという思惑がうごめいていると危機感を抱いている。
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先ごろ発表された1月の貿易統計によると、月間赤字が1兆6294億円、これは日本始まって以来の巨額の数字だ。また昨年の年間貿易赤字は約7兆円で、過去最悪を更新してしまった。新聞を読むと、その「元凶」として「原子力発電が停止していて、火力発電用の燃料輸入がかさんだ」ことが真っ先に挙げられている。しかし、この説明は正しくない。
確かに昨年、もしフルに原子力発電所が稼働していれば、燃料費の輸入は3兆円ほど少なくて済んだ可能性はある。しかし、この分を差し引いても昨年の貿易赤字は約4兆円にのぼり、これだけでも十分、「過去最悪」だったのだ。ここ数年の貿易赤字は、日本の抱える深刻な構造的問題に由来する。
貿易赤字の本質は日本を取り巻く経済諸情勢の変化にあるのに、一部の政治家等が原発停止のみに言及し、「巨額の国富が流出している」と声高に叫ぶのはなぜか。それは「富の流出を止めるために、一日も早く準国産エネルギーである原発を動かすべきだ」という世論を喚起したいからだ。
(週刊朝日2013年3月15日号「甘辛ジャーナル」からの抜粋)
※週刊朝日 2013年3月15日号