不倫、不祥事、首相の辞任、ジャニーズ退所……政治家から芸人まで、2020年もさまざまな記者会見が行われた。「今年は明暗がくっきり分かれました」と語るのは、“謝罪のプロ”の肩書で情報番組にも出演するブランディング戦略家の鈴鹿久美子さん。2020年の会見を振り返りつつ、ベストとワーストを選んでもらった。
* * *
まずは、ベストの会見から。鈴鹿さんが選んだのは、2月21日に行われた中居正広のジャニーズ退所による独立表明会見だ。
「中居さんのあの記者会見は、私がこれまで見てきた中でも最も見事な会見でした。良い会見は、一回ですっきり終わらせますし、記者や視聴者に疑念を抱かせません。実際、中居さんの会見後は、週刊誌の後追い記事などもほとんど見受けられませんでした。見ていた誰もが納得し、しかも楽しい印象すら残した最高のエンタメ会見。天才が努力をするとこうなるのかと感激しました」
プロの目から見て、どのような点がすごかったのか。鈴鹿さんは、中居の“MC力”に着目する。
「あの会見では、ムードも話の内容も、すべて本人がリードしていた。私はこれを『場をとらえる』と呼んでいますが、非常に高度なテクニックなので、私のクライアントにはこのレベルまで要求することはありません。しかし、中居さんには他者の話を狙い通りに引き出したり、番組の場を盛り上げたりする独特の能力がある。長年のMCで培われた話術で、あの会見を仕切ってしまったんです。自身の経験と強みを、これ以上ないほど上手に活用された、パーフェクトな会見でした」
鈴鹿さんによれば、記者会見で大事なことは、「答えにくい質問が出たとしても上手に終わらせ、繰り返させない」ことが大事だという。そのためには、「具体的な言葉」が重要だと指摘する。
「『退所を誰かに相談したか』という記者からの質問に対し、中居さんは『東山くん』としっかり名前を出していました。その後、記者からの答えにくい質問が出たところで、ふと思い出したかのように『あ!城島くんに伝えるのを忘れた!』と言って、その場の空気を笑いに変えてしまいました。具体的な言葉を使うことでけむに巻いてしまったわけですが、それを気づかせないうまさがありますし、ユーモアを交えているので嫌な気分にさせません。所属事務所の上下関係を持ち出すことで、誰もがクスッと笑える小ネタに仕上げたのです」