2018年に三菱商事からアシックスの社長に就任した廣田康人氏。ゴールドパートナーとして五輪特需に沸くはずだった本年は一転コロナ禍となった。だが、逆風のなかで見えてきた景色もある。「この指とまれ」で、デジタルの未来を広げる――。
【インタビュー前編】アシックス廣田康人社長が語る「大改革」と「コロナが連れてきた新しい風景」から続く
日本発グローバルスポーツブランドの新フェーズ
デジタル戦略にはさらなる構想がある。
「レースに出場するとします。シューズやウエアをそろえ、参加登録をする。次にトレーニングです。どうすればタイムを上げられるのか?など、やるべきことはたくさんあると思うんです。大会参加で必要となること、周辺情報などをそれひとつで完結できるようなデジタルサービスを開発したいんですね」
大会手続きに関しては18年にカナダのレース登録サイト『レースロースター』を買収した。トレーニングのサポートにはフィットネストラッキングアプリの『アシックス ランキーパー』やセンサー内蔵のスマートシューズ『エボライド オルフェ』が役に立つ。後者はスマホとの連携でランニング中に「ストライドをもう少し大きく」「ピッチを上げて」など音声コーチもしてくれる。加えて、ランナーのフォームなどを解析する腰用のセンサーもカシオ社と協業し21年春に発売するという。
「僕らが描く完成形はまだ先ですよ。たとえば、大会出場となれば、現地で宿泊をしたり、食事をしたり。レース前の食事はランナーなら気になりますよね。ケガの保険やメンタルのサポートなどもあるといい。もちろん、アシックスだけで仕組みを作るのは難しいので『この指とまれ』じゃないですが、あちこちで仲間を募っている最中なんですね」
デジタルの取り組みは早いほうではなかったものの、同社のビッグデータは他を圧倒している。世界100万人以上の足型を保有し「歩く」「走る」などの知見を有し、先のスマートシューズでも情報量は先を行く。18年に開発した歩行年齢や将来の健康寿命を予測する「アシックスヘルスケアチェック」にもそのノウハウは生かされている。
「アシックスのデータと医学会のデータを有機的にマッチングさせるなど、医療との連携も重視していますね。IoTとの組み合わせで未来もぐっと広がります」
廣田は続ける。
「スマートシューズなら高齢者の転倒予防であったり、徘徊(はいかい)などの心配がおありの方の位置情報として使える可能性もある。あるいは、お子さんが車道に飛び出しても自動で車が止まるよう、靴と連携できる可能性もある。いままでは『モノを作る』ことを主体にしてきたアシックスですけど、今後はまた違った展開を大事にしていきたいんですね」