冷気がさーッと入り込むが、音は聞こえない。静まり返っている。雪には吸音効果があるという話を思い出した。
ときどき、高校生や老人が乗り込んでくる。入口でコートに積もった雪を払っている。
敦賀から琵琶湖の東側を走る列車に乗り、東海道新幹線に出た。ここから東京に戻る。
新幹線に乗ると、意識は仕事モードに移ってしまう。新聞社に勤めていた頃、よく東海道新幹線に乗った。東京に戻るときはいつも寝ていた。
関ケ原あたりを通ったとき、雪が舞った。目を凝らしたが、雪の粒は見えなかった。新幹線は速すぎるのだ。
雪を見るなら時速100キロ未満の列車──。そんなことを考えていた。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)