阿佐谷麦酒道場自家製のビールはタンクごとに新しい味を造るが、あえてキリン系のビールも置く。能村さんは、師匠の「ビール抜きでも繁盛する店を目指せ」という教えを胸に刻む。価格は抑えた(撮影/今祥雄)
阿佐谷麦酒道場
自家製のビールはタンクごとに新しい味を造るが、あえてキリン系のビールも置く。能村さんは、師匠の「ビール抜きでも繁盛する店を目指せ」という教えを胸に刻む。価格は抑えた(撮影/今祥雄)
店主の能村夏丘さん(撮影/今祥雄)
店主の能村夏丘さん(撮影/今祥雄)

 地ビールならぬ、店で自家製ビール“店ビール”を出すブルーパブが増えている。

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「パン屋のように、どこの街にもブルーパブがある」日を夢みるのは、麦酒企画の能村夏丘(かきゅう)さん(31)だ。

 勤めていた広告制作会社の仕事も楽しかったが、「地に足のついた仕事をしたい」と2009年に退職。地に足のついた“何か”を求めた旅先で出合ったのが、栃木の小さなビール醸造所だった。

 この規模なら自分でもやれる、と情報を集め人脈を作り、岡山県で運送業の傍ら地ビール醸造も手がけるゼンワークスの社長に弟子入りする。長距離バスで通い、醸造や経営の技術と精神を学んだ。

 能村さんが目指すのは、街の人に親しまれるブルーパブだ。

「パンをこだわりのパン屋でも、大手メーカーの商品をスーパーでも買えるように、ビールにも選択肢が必要。選択肢の多さが本当の豊かさだから」

 学生時代から住んでいるJR中央線沿線に10年12月に開いた「高円寺麦酒工房」はすぐ人気店になった。昨年7月には5年間の期間限定で2店目の「阿佐谷麦酒道場」を開いた。「道場」というネーミングには、いずれ独立開業する従業員たちを育てる場、という思いを込めた。

 ブルーパブの開業が相次ぐ背景を、酒文化研究所の山田聡昭さんはこう話す。

「麦芽100%のビールを造る免許を取得するには最低でも年間60キロリットルの製造見込数量が必要だが、ブルーパブの多くが取得する発泡酒製造免許なら10分の1で済む。小さく始められるビジネスなので、(企業に)雇われる将来に不安を抱くより、自分で挑戦したいと思うのでは」

AERA 2013年3月25日号