市川猿之助(提供)
市川猿之助(提供)
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この日は取材日。共演者との対談なども含め、精力的にたくさんの取材をこなしていた(提供)
この日は取材日。共演者との対談なども含め、精力的にたくさんの取材をこなしていた(提供)

 今から48年前、渋谷のPARCO劇場がまだ“西武劇場”という名だった頃に、オープニング記念シリーズとして上演された井上ひさしさんの書き下ろし舞台「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」。リニューアルしたPARCO劇場で、希代の悪党で盲目の“杉の市”に歌舞伎界の“若き重鎮”市川猿之助さんが挑む。

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 下手したら潰れるかもしれない──。

 新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が発令された2020年4月、猿之助さんは歌舞伎について、かつてないほどの危機感を覚えていた。

「松竹という企業が、3月から7月まで全く収入がなかった。歌舞伎を生業にしている人たちは本当に食えなかったから、長年続けた仕事を離れる覚悟をした人もいたと思う。世の中の人たちは、『歌舞伎なら大丈夫』と思っているかもしれませんが、あのとき、国は頼りにならないことが証明されましたし、もし松竹が倒産したら、今までのような形の歌舞伎はできなくなります」

 同じ伝統芸能でも、家に稽古場があって装束も手元に保管できる能や狂言の人たちと歌舞伎とでは、公演の構造自体が違うことにもあらためて気付かされた。

「歌舞伎役者は、カツラも衣裳も持たない。あの劇場空間自体が、あらゆる専門職の集まりです。落語家や芸人さんは自分の仕事を例えばリモートで発信することができるけれど、歌舞伎役者はそれもできない。大勢の技が結集するからこそ、上演できれば歌舞伎って大きな力になるんだけれど、そこがかなわないと、とことん無力になる」

 8月1日から、客席数を半分にして歌舞伎座での公演が再開したが、「やるほうも命懸けなら見に来る人も命懸け。今まで役者って芝居のことを考えていればよかったけれど、コロナ禍ではお客様の安全を第一に考えるようになりました。時代は変わったものです」と話す表情に無念が滲む。

 話は少し前後するが、4月の末からは、ドラマ「半沢直樹」の収録がポツポツと入るようになっていた。

「『半沢~』に入るまでは、本当に、生活必需品を買いに行くときだけ外出して、あとは家にいるというだけの日々でした。空いた時間? ずーっと読書です」

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