そう、金学順さんをはじめ、日本政府を訴えた女性たちが求めてきたことは90年代から一貫して、日本政府による真摯な謝罪、その一点だった。これまで裁かれることのなかった戦時や紛争時における女性への性暴力。長い間、罪ともされなかった罪への謝罪を求めたのだ。謝罪とは、最近よくある「誤解をあたえてすみません、ぺこり」というような軽いものではなく、事実を認め、責任の所在を明らかにし、被害者救済に全力を尽くすことだ。

 日本政府はこれまで「慰安婦」にさせられた女性たちに対し、「お詫びと反省の気持ち」を繰り返し表明してきた。「お詫びと反省の気持ち」とは、定型文のように小泉首相も、安倍首相も使ってきた言葉だ。これをもって「日本は何度も謝っている、いつまで謝ればいいのだ」と言う人もいるのだが、「お気持ち」は形(賠償)にしなければ、真の謝罪にはならない。だいたい謝罪とは、受けとる側が納得しなければ意味がない。そもそも、犯した残虐性に比して、「お詫びと反省の気持ち」の字面はどこか軽すぎる感が否めない。なにより歴史教科書から「慰安婦」の文言が消え、「慰安婦」は嘘つきなどという言説が根深くあり続ける日本社会で、いくら「お気持ち」を政府が表明しても、行動として全く見えない時点で謝罪が嘘っぽく見えてしまうのも、被害者からすれば当然の心理だろう。

 1月8日、韓国人元慰安婦女性たちによる訴えを受け、韓国の裁判所が日本政府へ賠償を命じる判決を出した。これを受け、韓国への感情的な批判が強まっている。「常識的に考えておかしい」と韓国法曹界の常識を問う発言をする人は政治家、言論人問わず少なくなく、「これ以上、日韓関係を悪化させて何が面白い」と韓国に怒りを向ける新聞コラムがあったり、「日韓関係が史上最悪」と煽ったりするようなメディアは後を絶たない。

 日本は関係改善に努力しているのに、韓国が一方的に悪化させてくる……という被害者意識を剥き出しにした論調が、これまでになく強まってしまっているようだ。なぜ韓国の裁判所は主権免除が適用されないと判断したのかなど、事実をもとに国際的な潮流を丁寧に読み解いていく必要があるはずだが(国家のどのような残虐行為にも主権免除が絶対だったのは19世紀までのこと。法的地位が脆弱な被害者であり救済手段が他にない場合には主権免除の例外が適用されることはこれまでもあった)、韓国はおかしいと驚いてみせ、日韓関係を悪化させる気かと脅すメディアの論調こそが、日韓関係を心理的に悪化させてしまうのではないかと強く懸念する。

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「慰安婦」問題は終わったはずのことなのか?