約10年前、雑誌への寄稿で創価学会名誉会長の池田大作氏に言及した際、作家の佐藤優さんは知人たちの反応に違和感を抱いた。
「『変なところに首を突っ込んだね』と一様に心配され、驚きました。創価学会に関して肯定的な発言を許さない空気に危うさを感じました」
巨大な影響力を持つ宗教団体をなぜタブー視するのか。多くの人は創価学会を理解した上で、批判しているのか。今回、佐藤さんは池田氏の著作『人間革命』『新・人間革命』を読み解き、池田氏の足跡を辿ることで創価学会のありようを浮き彫りにした。それを『池田大作研究 世界宗教への道を追う』(朝日新聞出版 2200円・税抜)にまとめた。
「本書でも触れましたが、私はキリスト教の洗礼を受けています。学会員ではありません。ただ、キリスト教を批判するのに新約聖書を読まなくては議論になりません。同じように創価学会を論じるならば、池田氏の著作を読むべきですが、外部から学会を批判する人の多くにはそうした形跡が見当たりません。外形的な批判に終始してきた印象です」
本書の中で、特に力を入れたのは、北海道夕張市での炭鉱労組事件だ。創価学会が国政に進出した1950年代、夕張で創価学会系候補が票を集めた。社会党の牙城だった日本炭鉱労働組合が学会員の活動を規制するなど圧力をかけた。
「両者は一触即発になり、公開討論会まで予定されましたが、最終的には内々の対話で解決しました。この事件は創価学会の平和主義を考える上でも見逃せません。目の前に分厚い壁があった場合、壊そうとするのが社会革命家。ところが、創価学会は壁を壊そうとしません。壁が分厚ければ向こう側にいる人と友達になればいいと考えます。公明党が国や地方の政治で常にキャスティングボートを握ることとも無縁ではないはずです」
創価学会と公明党は切り離せない関係だが、日本における政教分離に対する誤解についても、わかりやすく解説している。
「政教分離は国が宗教団体に介入すること、宗教行事を行うことを禁止したものです。宗教が政治にかかわるのは憲法違反ではありません。宗教色が強い候補者よりも、宗教的に中立を打ち出している候補者の後ろに宗教団体が隠れている場合のほうが問題ではないでしょうか」
博覧強記で知られ、1カ月に600冊以上に目をとおす。関心は宗教のみならず多方面に及ぶが、メディア考察の一環で「1936年」に最近は注目しているという。
「二・二六事件が起こった裏で阿部定事件と上野動物園からのクロヒョウ脱走事件が起きました。メディアは阿部定とクロヒョウを競って報道し、国民の関心が政治に向かわないこともあり、政治の暴走が止まらなくなりました。ですから、現代のニュースのワイドショー化も非常に危険をはらんでいます」
国家権力と対峙した佐藤さんだからこそ見えるものがあるのかもしれない。(栗下直也)
※週刊朝日 2021年1月29日号