女優の土屋太鳳さんは、主演のオファーを3度断ったという。
2016年に開催された次世代のクリエーター発掘を目的としたコンペティションでグランプリを受賞した「哀愁しんでれら」。主人公の小春は、真面目に働き「幸せになりたい」というごく普通の願いを胸に、優しく裕福な開業医・泉澤大悟と結婚し、彼の連れ子・ヒカリの母になるが、生真面目ゆえに「いい母になろう」「いい妻であろう」というプレッシャーに追い詰められ、ついには社会を震撼させる凶悪事件を起こすというショッキングなストーリーだ。
土屋さんはその脚本を読んで、「覚悟できないまま取り組む物語ではない」と感じたが、制作陣も「自分自身を見失うような役に身を投じる土屋さんがどうしても見たい」と粘った。「やります」と答えたのは、4回目のオファーのとき。最初の打診から半年が過ぎていた。
「このお仕事をしていて特に大事だなって思うのは、自分の気持ちをちゃんと口に出して伝えられるかどうか、です。日本では、あまり思ったことを口に出さないほうが、人間関係が円滑に回ることがあるかもしれないけれど、そうやって気持ちを隠したり、感情を殺したりしていると、気持ちの中に澱のようなものがたまって、いきなり爆発してしまうことがある。私が演じた小春も、お金持ちと結婚したことに引け目を感じていたせいか、夫や娘に対する疑念が積もっていって、孤独を抱えてしまうんです」
「主演のオファーを固辞した」などと聞くと、頑固な人のように感じられるかもしれないが、彼女はむしろとても柔軟だ。テレビバラエティーなどの印象そのままに、人の話をよく聞き、よく笑い、終始イノセントな雰囲気を漂わせる。
「人に気持ちを伝えて嫌われてしまったら? それはしょうがないです。お芝居のときはとくに、一瞬一瞬が真剣勝負なので、わだかまりを持ったままでは、前に進めないことが多い。だから、好かれるとか嫌われるとかは気にせずに、自分がベストだと思うことをやるだけです」