つまりこのマンション、冷静に眺めれば資産価値を評価できない。

 その晴海フラッグが、唯一のウリである「選手村跡地」でさえなくなるかもしれないのである。

 東京五輪は、すでに2020年の開催が1年延びている。これによって、そもそもが「2023年4月引渡予定」だったのが、現状では「未定」になっている。1年延びたことを考えれば、「2024年4月」と予測することもできるが、正式には決まっていない。

 売り主側の広報によると、19年に行われた第1期1次と2次の販売で、900戸以上の販売契約が締結されたとしている。五輪の開催延期で「手付金返還でのキャンセルは可能」となったのが昨年の春。それ以降、どれほどの人がキャンセルしたのかは発表がない。

 しかし先日、約20人の購入契約者が「2024年以降に引き渡しが延びたことによる補償」を求める民事調停を申し立てた、との報道があった。

 子どもの小・中学校への入学や転勤の予定、その他の人生設計を立ててこのマンションの購入契約を結んだ人にとって、一方的な引き渡し遅延は確かに経済的損失につながるはずだ。しかし、私は調停がうまくいくとは思えない。

 実際の購入契約書の文言によるが、通常、新築マンション購入契約書には売り主側の免責事項に「天災や戦争など売り主側の責に帰されぬ事象が発生」という項目が入っている。

 今回の新型コロナは「天災」に近いものと解釈するのが、法律家たちの多数意見ではないか。つまり、契約者側から見たこの調停の見通しは暗い。

 それよりも、今なら手付金返還によるキャンセルが可能である。ぐずぐずと調停や無理めの訴訟などを期待せずに、ノーペナルティーのキャンセルで手付金を取り戻して、人生の次の展開を描くべきではないか。当初の引き渡し予定である2023年の4月でさえ、今から2年以上も先のことなのだから。(文=住宅ジャーナリスト・榊淳司)