定刻十分前、東山彰良も来て選考会開始。編集者の司会で一次投票のあと、各委員が意見を述べる。わたし思うに、オンラインの会合というのは自分の意見に対して他のひとの反応が遅く、表情もちゃんと把握できないから隔靴掻痒(かっかそうよう)の感がある。対する利点はパイプ煙草を吸い、コーヒーを飲みながら会議に参加できることで、これは大いにリラックスできた。メモをとるのも支障はない。

 選考会は和やかに終わった。大沢さんと東山さんの講評は当を得てたいそうおもしろく、勉強になった。

 ただひとつ不満なのは、コロナ下の選考会では授賞が決まったあと、選考委員と受賞者が会って(選考対象者は担当編集者と都内で待ち会をしていることが多く、受賞が決まると合流する)本人に直接、お祝いの言葉をかける機会がなくなったことだ。選考委員も祝賀の席は愉(たの)しいし、受賞者がどんなひとか、会って話もしたい。今回の受賞者は兵庫県出身と聞いたので、なおさらお会いしたかった──。

 Zoomから出たところへ、よめはんが来た。「なに、してたん」「オンラインの選考会」「よかったね。東京まで行かずに済んで」「それはありがたいけど、たまには飲みたい。編集者と麻雀もできんしな」「じゃ、遊んであげるわ」

 よめはんに引率されて麻雀部屋に行った。

「思いついた。ここに胡蝶蘭を置くのはどうや」

──よめはん、反応せず。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年2月12日号

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