さて、尋常性乾癬ですが、これまでは塗り薬が治療の基本でした。2010年、尋常性乾癬に対してはじめての生物学的製剤レミケードが登場し、治療は一変しました。現在では10剤の生物学的製剤が保険承認され、注射を定期的に打つだけで全くブツブツが出ない患者さんも多くいらっしゃいます。

 一般的に、悪い状態に慣れてしまうとそこから一歩先に進んで治療を受けようとする意思が弱くなりがちです。

 関節炎を伴うタイプの乾癬性関節炎では、将来、関節の変形が起きてしまいます。リウマチと同じイメージです。この関節の変形は、現代の医学ではもとに戻すことはできません。変形しないように早い段階から治療を開始し、予防に努めることが大事です。痛いことに慣れてしまい、「まぁ、なんとかなるだろう」と現在バイアスがかかった状態でいると、後で「こんなはずではなかった」と後悔するかもしれません。

 さて、ここで前述の言葉を思い出してください。

 とくに「今の状態でいいかな」と思っている乾癬患者さん、

「ゴールはここじゃない」

 です。

 乾癬はもっと良くなる可能性がある病気です。新薬が次々に登場しているいま、ぜひ皮膚科専門医に相談してほしいと思います。

 私の外来に乾癬の影響でつめが変形していた患者さんがいました。これまでの治療ではいっこうに良くならず、半ば諦めかけていた状態で紹介された人です。

 私は新薬の説明をし、「つめの変形も注射でよくなります」と話しても、

「でも注射は怖いですし」

 と、なかなか首を縦に振ってくれません。

 それでも根気よく新薬をすすめていたある日、

「そんなに先生が言うならやってみます」

 そう言って治療を開始してくれました。

 副作用も特になく経過した数カ月後、すっかりきれいになった手のつめを見せ、

「こんなに良くなるとは思っていませんでした。これまでは人前で手を出すのが恥ずかしかったのですが、これで堂々と生活できます」

 患者さんの笑顔をみて、心から良かったと感じた瞬間でした。

 医学は日々進歩しています。私も「ゴールはここじゃない」と信じて患者さんの治療に取り組みたいと思っています。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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