友人たちとの部屋呑みを予定していたおーちゃんは、エタノールをペットボトルに移し入れて持ち帰り、アルコールがわりにジュースで割って飲んだ。

 エタノールは市販のアルコール飲料にも含まれるアルコールの一種。我々も口にするものだ。

 そんな風に飲むのは、おーちゃんは初めてではなかったかもしれない。

 問題はないはずだった。

 エタノールであれば。

 だが、その時おーちゃんが飲んでいたのは、メタノールだった。

 同じアルコールの一種でも、メタノールは劇薬である。

 しかし、おーちゃんはそれと気づかずに、その時、致死量のおよそ3倍の量を飲み切った。

 体内に入ったメタノールが毒性を持つまで48時間なのだそうだ。

 翌日、おーちゃんはいつも通りに過ごし、友人たちとカラオケにも行った。

 そして48時間が経過した頃、急激に気分が悪くなって目の焦点が合わなくなり、病院に駆け込んだ。

 それから数日、おーちゃんは生死を彷徨い、意識が戻った時には、視力を失っていた。

 おーちゃんのすごいのはここからである。

 一生視力が戻ることはないだろうと聞かされ、そりゃ、おーちゃんだってショックを受けたろう。混乱したろう。

 一番最初におーちゃんが言った言葉は、「俺だけ?」だった。一緒にいた仲間は無事だったのか。それが気になったのだ。自分だけだと聞くとほっとしたという。

 そこからおーちゃんが前を向くのは早かった。

 まずは、身体の回復。もう、動くことも話すこともできないかも知れない、と一時は宣告されたおーちゃんだが、視力以外は全て回復。

 リハビリも頑張った。

 さあ、動けるようになって退院したおーちゃん。3カ月後には視力障害センターでの訓練が控えていた。

 両親には、家でゆっくり身体を休めろと言われたが、おーちゃんは動き出したかった。

 バイトをしようか? いや、雇ってもらえないだろう。家庭教師はどうだろう……雇ってもらえないか……。あれ? 俺はもう、1円稼ぐのも無理なの? 戦力外じゃん。

 この事実が再びおーちゃんに重くのしかかる。

 そんな時、地元の小学校から「授業をしてほしい」と依頼が入る。

 六年生のクラスで教壇に立ったおーちゃんは、視力を失った経緯や、生活の変化、今の生活について、ありのままを子供たちに話した。生徒からはたくさんの質問が来たという。

 その後、卒業式の2日前にもう一度おーちゃんはその生徒たちに招かれて、歌のプレゼントを贈られた。

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