テレビ各局の春のドラマが出そろった。「ガリレオ」が視聴率22.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で好発進するなど話題は多いが、数字や各局の思惑とは無関係に、本当におもしろいドラマはどれだろう。「ドラマが大好き」という作家・柚木麻子(ゆずき・あさこ)さんに、独断オーケーで裁いてもらいました。

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 海女(あま)を目指す女子高生が主役のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」は、ドラマの新しい可能性を示唆する逸品です。クレージーキャッツ風のテーマ曲にのって三陸鉄道をぐんぐんと突っ切り、澄んだ海に飛び出すオープニングからして、開放感に満ちあふれています。地方と東京、新しいものと古いもの、切なさとこっけいさ。そのどちらにも平等な視線を向けるところに脚本家・宮藤官九郎らしさがあり、誰も傷つけないスマートなやり方で朝ドラの「お約束」を裏切っていくのが気持ちよい。何より、海女ルックの能年玲奈(のうねん・れな)は久々にはっと目を惹(ひ)く愛らしさです。美少女にあるまじきひどい背で、エへエへと笑うさまに心が洗われます。

「月9」は天才物理学者が難事件に挑む「ガリレオ」(フジ系、月曜夜9時)。福山雅治と柴咲コウの奇跡的な相性の良さが評価された前作から、ここにきてヒロインを吉高由里子に交代するというのは、どう好意的に見ても不可解。そんな視聴者の疑惑をねじ伏せるかのように、柴咲から吉高への仕事の引き継ぎを強引にストーリーに溶け込ませています。「つかんだファンは絶対離さへんで!」という作り手側の執念が感じられました。

 交代劇といえば直前で織田裕二から古田新太への主演変更が話題になった「間違われちゃった男」(フジ系、土曜夜11時10分)。これはむしろ、古田で成功といえるでしょう。泥棒が寿司職人に間違われ、歓迎される第1話。にこっとするだけで不思議な温かさの広がる古田なしに、このやや無茶な筋立ては成立しません。

 
 篠原涼子主演で独身アラフォー女性の本音と日常を「ちょっとエッチ」に描くという触れ込みの「ラスト・シンデレラ」(フジ系、木曜夜10時)。しかし繰り広げられたのは、ここ数年でさんざんやりつくされた女のズボラ描写と横並びのおしゃべり大会でした。ほぼすっぴんで挑む篠原には感動したものの、三浦春馬のすべすべ背中も篠原の胸の谷間も、女性誌のグラビアで普通に目にするたぐいのもの。日本のドラマが「男日照りのガールズライフ」を今後も続けていきたいのであれば、女のオナニーを取り上げるくらいの気概を持たないと、先はないでしょう。

 と思っていたら、ありました。「みんな!エスパーだよ!」(テレ東系、金曜深夜)は超能力にめざめた高校生の日常を描く、鬼才・園子温監督による学園コメディー。独特のほこりっぽいような映像に、主演の染谷将太ほか実力派キャスト勢揃いです。真野恵里菜や夏帆ら清純派アイドルの、のけぞるようなお色気シーン、パンチラ、監督の妻・神楽坂恵の胸をナチュラルに揉(も)みしだく安田顕、オナニー、TENGA……。前日「ラスト・シンデレラ」であれだけ待ち望んだ「ちょっとエッチ」が矢継ぎ早に繰り出される世界観に、私は少々呆気(あっけ)にとられ、初回は取り残されたまま終了しました。「新しいものが見たい」と言いながら、本当に斬新なものには拒否反応を示す、おのれの弱さとエゴを突きつけられた気がします。そう、このえぐられる感覚は劇場で園監督作品を見た時と同じ……。ぬるいテレビ業界への燃えるような憤り、今クール一番の「攻め」が感じられる渾身(こんしん)の作品であることに間違いありません。

 米倉涼子の制服コスプレで話題の「35歳の高校生」(日テレ系、土曜夜9時)は、生徒として送り込まれた謎の女が荒れた高校を立て直すというストーリー。スタイル抜群の米倉ゆえ制服姿になんの違和感もなく、5秒で目が慣れてしまうので「出オチ」感は否めません。スクールカースト、「いじめ」と「いじられ」の混在……。目の付け所は悪くないものの、解決方法は「GTO」から何も変わっていないのが残念。一話完結の形で「いじめ」を描くのであれば、ドラマを見たいじめられっ子が翌日使えるサバイバルテクを、最低一つ提示しなければだめだと思うのですが、それがない。初回では昨今問題の「便所飯」が取り上げられますが、てっきり大人の視点から「社会に出たら一人でランチをとることはざらにある。恥ずかしいことでもなんでもない」と教えてくれるのかと思いきや、いじめられっ子と一緒になってトイレで食事をするヒロインに首を傾(かし)げたくなります。

 ただ担任教師役の溝端淳平は好演。「ハチワンダイバー」に始まり、「BOSS」「新参者」「都市伝説の女」で極めた「個性派主人公に振り回される今時の若者」に、今回は俗っぽさと卑怯さをブレンド。校舎の陰で口汚く愚痴りながら喫煙する溝端は、マイペースに新境地を開拓しています。

週刊朝日 2013年5月3・10日号