福島の第1次産業は、風評被害とコロナのダブルパンチで苦しめられる。「死活問題です」と関係者 (c)朝日新聞社
福島の第1次産業は、風評被害とコロナのダブルパンチで苦しめられる。「死活問題です」と関係者 (c)朝日新聞社
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 未だに震災の影響に苦しむ福島県の農家を、コロナが襲った。あまりに悲惨な現状に、人々は身動きがとれないでいる。AERA 2021年3月1日号で取材した。

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「身動きが取れないです」

 福島県伊達市。肉牛農家の狗飼(いぬかい)功さん(73)は力なくつぶやく。60頭ほどの牛を飼育し、年間およそ30頭を東京や県内に出荷してきた。

 狗飼さんは元々商社マンだ。60歳の定年を機に、家の畑を整地し牛舎を建て肉牛を育てる農家になった。だが翌年、原発事故が起き、牛の餌となる稲わらが放射能で汚染された。県は肉牛の出荷を停止し全頭検査を始め、2011年8月下旬以降、基準値(1キロあたり500ベクレル、12年10月からは同100ベクレル)を超えた牛肉は出荷されていない。が、全国トップクラスといわれた「福島産」の肉牛価格は急落。いったん失った販路の回復は難しく、東京都中央卸売市場で福島県産和牛の1キロあたりの平均単価は全国平均より300円近く低い状態が固定化した。

 そこをコロナが襲った。外食産業は営業を自粛し、肉牛の需要は減った。狗飼さんは生後10カ月の子牛を100万円ほどで購入し約20カ月かけ育てた後、1頭120万円ほどで出荷する。しかし1頭にかかる餌代は約40万円。1頭育てるのに20万円近い赤字となるのだ。農家仲間は次々とやめていくが、狗飼さんは投資して牛舎を建てたのでやめるにやめられないという。

「やればやるほど赤字です。福島肉牛の火を消したくないから、頑張っているようなものです」(狗飼さん)

 牛以外はどうか。

「川下の部分で消費が止まり、川上から川下にお米が流れていかず、どんどん疲弊していっている状況です」

 会津よつば農協(福島県会津若松市)米穀課長の筒井秀(しゅう)さんは、福島の米農家が立たされた苦境をこう説明する。

 国内屈指のブランド米として知られる会津産コシヒカリも、原発事故とコロナで一変した。事故で「福島産」の米の価格は大幅に下落し、「国産」とだけ表示される業務用米にシフトが進んだ。16~17年産米の福島県産の業務用比率は、全体の65%を占め群馬と並びトップになるまでに。そこにコロナが来た。外食店舗の営業自粛で、業務用米の需要は落ち込んだ。農協の農業倉庫には、本来なら相当量出荷が進んでいるはずの「2020年産」の会津産コシヒカリ米がまだ積み上がったままだ。筒井さんが言う。

「もう、いち農協でどうこうできるレベルの問題ではない。国は何か一つでもいいので手立てを打ってほしい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年3月1日号