コロナ禍はやまず、おうち時間が長い今、“昭和のテレビドラマ”に浸ってみてはいかがだろう。ネットの動画配信サービスや、BS、CS放送で、過去のテレビドラマを手軽に見ることができるようになった。懐かしいだけじゃない、発見があるはずだ。
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「日本のテレビドラマは、昭和の後半1970年代から80年代にかけてが黄金期です」
そう話すのは『昭和ドラマ史』の著書もある日本大学芸術学部名誉教授、こうたきてつやさんだ。
こうたきさんによると、テレビ草創期から60年代までは原作ものが多いが、この時代は脚本家が作り出すオリジナル・スタジオドラマが、多くの視聴者を虜(とりこ)にしたという。70年代からは日本が抱える問題に脚本家が向き合い、ドラマとして提示した。
「社会や会社、家族のことなど、脚本家は今も通用するテーマをドラマに仕立てました。私はそれを普遍的予見性と呼んでいます」とこうたきさん。
倉本聰脚本の「北の国から」で、北海道に移り住んだ黒板五郎(田中邦衛)一家の息子・純(吉岡秀隆)が「電気がなかったら暮らせませんよ!」と言うと、五郎が「そんなことはない」「夜になったら寝るんです」という台詞(せりふ)があり、自然と共に暮らす自給自足の生活を描いた。このように倉本は「北の国から」をはじめ環境をテーマにした。
山田太一は「ふぞろいの林檎たち」で四流大学の学生たちの将来への不安や学歴差別を描いた。
「学生たちに70年代のテレビドラマをいくつか見せたところ、障がい者差別を描いた山田太一脚本の『男たちの旅路』シリーズの『車輪の一歩』に感銘を受けたという声が多くありました」(こうたきさん)
橋田壽賀子は「女たちの忠臣蔵」で、忠臣蔵を徹底的に女性の視点から描いた。ドラマでは、「あんな勝手な殿さまのために、何をすることがあるの。生きて下さい!」といった女の叫びで男社会のあり方を問い、家族の考え方にも一石を投じたと、こうたきさんは言う。
市川森一脚本の「淋しいのはお前だけじゃない」では、借金取り立て業の沼田(西田敏行)と逃げ回る借金常習者がめぐりあい、ふとしたことで大衆演劇の一座を立ち上げることになる。そして沼田はそのサラ金地獄と旅芝居のなかでつかの間の夢を見る。
「テレビドラマならではの、夢と現の世界を見せてくれる作品です」と絶賛する。(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2021年3月12日号より抜粋