仕事をしていると、順風満帆なことばかりではない。失敗したり、スランプに陥ったりすることは必ずある。実はその時こそが、次に成功を生めるかどうかの分かれ道だ。

 人気の無料通話アプリを提供する「LINE」。その執行役員である田端信太郎(37)は、これまで数々の逆境に遭遇し、乗り越えてきた。

 リクルート時代にフリーマガジン「R25」を立ち上げた時は、社内外から大逆風を受けた。

 別事業の事業責任者からは「うまくいくはずがない」ハッキリ言われ、冊子を置くためのラックさえ貸してもらえなかった。一軒一軒飲食店やコンビニを回り、置き場所を探したが、置くメリットがないから場所代が欲しいね、と嫌みを言われることもあった。だが発行後、話題を呼ぶと反応は急に変わった。

「うまくいかないことがあっても、ある時オセロの目が一気に変わる。その経験があるから、次の壁に当たっても、また変わる瞬間があると信じられる」

 ライブドアに転職後は、入社9カ月でライブドア事件が起きた。普通ならどん底に落ちるところだが、会社を去る社員が相次ぐ中、残ることを決意した。

「自分の価値は、会社の変化度にどれだけ貢献できるかだと考えれば、会社のピンチは決して自分のピンチではない。むしろ順調な時よりも、役に立てる可能性が高いわけですから」

 メディア部門を統括し、ライブドアの立て直しに貢献。部門の黒字化を実現し、ブログを使った新たな言論型ニュースサイト「BLOGOS」も立ち上げた。

 今LINEでは、広告部門を統括する。大手企業は、いまだに従来メディアへの比重が高く、スマートフォン関連はごくわずかな場合が多い。そういう世の中の価値観への違和感がアドレナリンに変わる。いかにスマホへの広告展開に効果があるかをプレゼンして、「オセロの目を変える」ことが自分の最大の役目だと感じている。

AERA 2013年4月29日号