「差し引き4機増。空母艦載機もそうだったが、岩国は沖縄の代わりをやってもらえると、国も高をくくっている」と田村は日米両政府を批判する。

 戦闘機が増えることで事故のリスクも大きくなる。基地は繁華街や住宅地に隣接し、危険と隣り合わせだ。不安を感じさせる事例がある。F35Bが20年9月29日、米カリフォルニア州で空中給油訓練中に給油機と接触、墜落する事故を起こしたが、この機はかつて岩国基地所属だった。18年には同基地の戦闘機と空中給油機が高知県沖で夜間訓練中に接触し墜落、6人が死亡した。事故について海兵隊の調査報告書は、「未熟な操縦士が多く配属されている」と指摘している。

 筆者が冒頭の「タッチ・アンド・ゴー」を目撃したのは20年10月19日。

「2機は前日に飛来したばかり。特別の訓練ではないかと思う」

 と語るのは、13年から岩国基地の米軍機監視を続けている元広島市役所職員でアマチュアカメラマンの戸村良人(74)だ。

■反対の声は封じられ

 戸村は毎日離着陸する軍用機を撮影、自身のホームページ「行動の写真集」で公開している。撮影した写真は約50万枚。機体ナンバーをチェックしているので、2機の飛来日も分かった。

 だが、田村や戸村のように声を上げる市民は少数派だ。米軍との関係は、年々密になっている。象徴的なのが、基地から約2.5キロ西に位置する愛宕山地区の開発である。県と市による人口5600人規模のニュータウン建設が始まりだった。着工は1998年。標高約120メートルの山を半分の高さに削り、土砂は滑走路の沖合移転に使った。ニュータウンと基地の再整備がセットだった。だが土砂搬出が終わった07年ごろ、住宅需要の低迷などで損失を出す恐れがあるとして計画は中止。土地の4分の3を国が買い取り、米軍住宅を建設した。

 17年に完成し、「Atago Hills(アタゴヒルズ)」と名付けられた。戸数262戸。1戸3~4LDK。広さ平均約150平方メートル。住宅は、米艦載機の移転で増える米軍関係者を見越してのものだった。近くには野球場、サッカー場、テニスコートなどを集めたスポーツコンプレックスも整備された。市民も利用できる「日米共用」で、野球場の名前は「絆スタジアム」である。

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