効果が期待できる可能性があるにもかかわらず、みすみす見逃されている“国産”治療薬がある。ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授の発見をもとにした抗寄生虫薬の「イベルメクチン」だ。
昨年4月、オーストラリアの研究グループが新型コロナを抑制する効果があったと発表し、注目を浴びた。世界各国の医師・研究者がデータを寄せるサイトによれば、コロナ患者に投与すると、初期治療で82%、重症例を含む後期治療で51%が改善、予防効果も89%あるという(3月4日現在)。ウイルスそのものを減らしたり、増殖を抑えたりする効果があるとの研究結果もある。
ただ、新型コロナに適応拡大するには臨床試験が必要で、現在、北里大学で進めているが、同大客員教授の八木澤守正氏はこう指摘する。
「寄生虫の薬として毎年何億人にも使われた実績があり、安全性は確立されています。しかも、服用は1度でいいのです」
コロナ治療での効果を期待し、使用している医師も少なくないが、ここに壁がある。国内向けにイベルメクチンを製造しているのは米製薬大手メルクの日本法人MSDだが、昨年4月から出荷調整しており、コロナ治療に回らなくなっている。
メルクは現在、コロナ治療のための新薬を開発中だ。しかも、イベルメクチンは日本での製造はMSDだけだが、世界では多数のジェネリックが流通する。臨床試験にも莫大(ばくだい)な費用がかかる。適応拡大されても、メルクにとっては利益にならないとの見方もある。
厚生労働省も十分なエビデンスが得られるかは、「研究の進捗(しんちょく)を待つしかない」との姿勢だ。
国会でも議論の俎上(そじょう)に上がった。2月17日、衆院予算委員会で中島克仁議員(立憲)が、新型コロナへの早期の承認を求めると、菅義偉首相は、
「日本にとって極めて重要な治療薬だと思っている。最大限努力する」。
中島議員がこう話す。
「最大限と言われた以上、世界に先駆けてコロナ治療薬として承認するとか、メーカーに増産を呼びかけるなどするべきです」
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、「医師が効くと判断したのなら、イベルメクチンを使うことは賛成です。出荷の調整などせずに提供すればいい。ただ、アビガンなどと同じように既存薬はこの間、ほとんど試されてきたはずです。本当に有効ならば、もっと注目されていいはずですが、英医学誌の『ランセット』には論文がありません」。
MSDに見解を聞くと、「現時点では、米国本社で、コロナの治療薬として臨床的に意義のある有効性を示すデータは出ていないと判断しています」(広報担当者)。
エビデンスが求められるのは当然だ。ただ、大事なのは目の前の患者に効くかどうかに尽きる。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2021年3月19日号