政治家が靖国神社を参拝するたびに日本と中国・韓国の関係は悪くなる。田原総一朗氏は、何度となく繰り返されるこの問題の根本を次のように話す。
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安倍晋三政権と中韓両国との関係が急激に悪化している。
尖閣問題で対立している日中関係を修復するために自民党の高村正彦副総裁が訪中することになっていたが、これが突如中止になった。習近平国家主席との会談ができないとわかったからだ。さらに、日・中・韓の首脳会談が韓国で開かれることになっていたが、中国代表が出席しないことで、これも延期になった。
そのため韓国外相が来日して日韓外相会談が行われることになっていたのだが、これも中止になった。
4月20日に新藤義孝総務相が、21日には麻生太郎副総理と古屋圭司拉致問題相が靖国神社を参拝したことで、韓国側は「侵略の歴史を肯定している」と怒ったのである。
ところが、23日には過去最多規模の168人の国会議員が靖国神社に参拝した。これは明らかに中韓両国の神経を逆なでする行為である。
中韓両国が参拝を激しく非難すると、自民党の高市早苗政調会長は「外交問題になるほうが絶対おかしい」と強く反論した。火に油を注ぐような発言だが、安倍首相も「どんな脅かしにも屈しない」と力説した。日本と中韓両国との対立は当然ながら激しくなるだろう。
もっとも、靖国問題は、国会議員が参拝しなければよいという単純な問題ではない。かつて小泉純一郎首相が靖国神社に参拝して中国から激しい非難を受けたとき、小泉首相と話し合った。
靖国神社には日中戦争や太平洋戦争などで亡くなった約250万人の軍人らが祭られている。彼らの犠牲で今日、私たちは平和な生活を送れているわけだ。靖国神社に参拝しないと250万人の戦死した軍人たちを無視することになるのではないか、というのだ。だが、靖国神社には1978年から、極東軍事裁判でA級戦犯として死刑の判決を受けて処刑された7人が祭られている。中国、韓国はA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に参拝するのは、侵略戦争を肯定する行為ではないか、と激しく怒っているのである。
小泉首相は「A級戦犯は問題だが、自分は7人の存在など意識の外にある」と言った。もちろんこれでは中国、韓国を納得させる説明にはなっていない。
だが、実は重大な問題がある。極東軍事裁判では、太平洋戦争は日本の侵略戦争だと断定したのだが、これは戦勝国による決めつけである。本来ならば、日本は独立後、日本人によって戦争の総括をしなければならなかったのだが、なぜか、われら日本人は現在にいたるも総括をしていないのである。
私は、満州事変や日中戦争は日本の侵略戦争だが、太平洋戦争は、侵略国と侵略国の戦争であったととらえている。
世界最大の侵略国はイギリスであり、アメリカ、オランダ、ロシアなどいずれも侵略国である。もちろん、朝鮮半島や台湾、南樺太などを日本の領土としていた日本も侵略国であった。つまり侵略国と侵略国のいずれが世界を支配するかという戦争だったのである。
なぜ、日本国は戦争の総括をしなかったのか。もちろん勝つ見込みのない戦争を起こし、多くの犠牲者を出した末に敗れた国家の責任者たちの罪は問わなければならないのだが、なぜ日本人はそれを回避したのか、いや総括から逃げてしまったのか。今からでも総括をすべきである。
※週刊朝日 2013年5月17日号
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