「裏方の人なんかは、舞台をやっている人たちとノリが近いことに気づいて。『あの照明さんカッコいいな』とか、そういう楽しみを見つけて、現場に通うモチベーションにしていました(笑)」

 つい理想を追求してしまったのは、若さゆえのことなのかもしれない。じっくり役に取り組みたいタイプの荒川さんは、瞬発力重視の映像作品と、一つの場面に腰を据えて取り組める舞台とを行き来することで、自分の中のバランスをとった。

「舞台なら、疑問があれば演出家にぶつけられるし、稽古を重ねて、やれることがちゃんとできる。その風通しのよさは、舞台ならではです。不要不急と言われている舞台ですが、この間の風間杜夫さんの『セールスマンの死』も本当に素晴らしかった。横浜まで行った甲斐がありました。今回も、観てくださった人にとって、そういう作品になれば」

 映像作品の場合、荒川さんに芝居に対する熱量があるが故に、周りとの温度差を感じてしまうのかもしれない。「では、もしそれで生活ができるのであれば、演劇だけやっていたいですか?」と質問すると、しばらく考えてから、「いや、楽しんで舞台をやれるっていうのは、俳優をやる上でのご褒美みたいなもんじゃないですかね」と答えた。

「舞台って、稽古があるから拘束時間は長いし、本番になったら今度は何回も何回も同じことを繰り返さなきゃならない。でも、だからこそ贅沢だと思うんです。僕は稽古が好きなんですが、稽古では、演出家のたった一言で、俳優の芝居がガラッと変わる。その瞬間を目撃できるのはすごくテンションが上がります。稽古を積み重ねていく行為が、僕は何よりおもしろい。ドラマの撮影でも密を避けていたので、こうしてみんなで稽古をやれることが、今は何よりのご褒美ですね」

 今でも十分、その雰囲気は味わい深いが、年齢を重ねて、さらにどんな俳優を目指すのだろうか。

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