希望者が70歳まで働けるよう企業に「努力義務」を課す「70歳就業法」が、4月から施行される。それに伴い、企業では定年制の見直しや廃止などの動きも見られる。どんな働き方なのか、企業が求めるものは。70歳で正社員に採用された男性のケースを紹介する。
「性分なんでしょうか……働き者というわけではないのですが、仕事をしていないと罪悪感を覚えます。ハローワークなどで仕事探しに苦労していたところ、7年前に出会ったのが今の会社です」
こう話すのは、不動産やリフォーム事業を展開するネクステージグループ(東京都港区)傘下の会社で働く渡辺裕之さんだ。現在、78歳。住宅など施工現場の安全対策を確認する仕事を担当し、週3日の出勤ではあるものの、正社員として現場の最前線を支えている。
もともとは建設会社で働いていたが、50代で大きな病気を患い、辞めざるを得なかった。やがて体調が回復したため、かつての取引仲間と会社を立ち上げるも、リーダー役の仲間が亡くなるなどして解散してしまったという。
「70代で十分な年金もあり、経済的には困っていませんでしたが、自宅にいてもどうも落ち着かない。偶然見つけたネクステージグループは、面接をしたその日のうちに採用してもらえました」
実は、会社の定年は当時70歳で、それをオーバーしていた渡辺さんは対象外だった。ところが、面接した人事担当者が、1級建築士や宅地建物取引主任者といった資格を持ち、経験豊富で意欲あふれる渡辺さんを高く評価。すぐに佐々木洋寧社長に掛け合うと“鶴の一声”で採用が決まったというのだ。
会社で広報を担当する鶴岡美保さんが、そのときの様子を振り返る。
「年齢だけを理由に優秀な人材の受け入れをやめてしまってよいのかと話し合い、採用を決めました。同時に、その場でグループの定年制もなくした。渡辺さんのように、70歳を超えても仕事を続ける社員が出ています」
会社の制度そのものを変えてしまった渡辺さん。「100歳まで仕事を続けるのが目標です」と笑った。(本誌・池田正史、浅井秀樹)
※週刊朝日 2021年4月2日号より抜粋