では、魚はどうでしょうか? 昨年もサンマが不漁で価格が高騰というニュースが流れるなど、年によって価格が大きく変動する魚がある一方で、サーモンなどではそうした価格変動はほとんど聞きません。
というのも、以前このコラムでも書きましたが、サーモンは全量がノルウェーなどで養殖で育てられているので、安定供給されているからです。
一方のサンマは、秋口に北から南下してくるのを漁師さんが取ってくるのが大半ですので、その年の漁獲量によって価格が大きく変動します。
それなら魚もどんどん養殖をすれば、安定供給できるのではと思いますよね。でもそう簡単ではないんです。
日本の漁獲量全体に占める養殖比率は約25%程度と、肉類に比べると非常に低くなっています。その理由として、日本は周囲を海に囲まれていて、新鮮な天然の魚が豊富に取れるということもありますが、他にも魚ならではの理由もあるんです。
それは、魚の養殖の効率の悪さです。
一般的には、鶏は生まれて50日~60日で出荷され、豚は約半年、牛でも1年半から2年半で出荷されるようです。
一方の魚はというと、最も早いハマチで約1年半から2年、ブリと呼べる80センチまで育てるには3年以上かかります。真鯛で2年~3年、クエやハタだと3年から5年程度でやっと出荷できるんです。
さらにある程度仕切られた空間で飼育される牛や豚、鶏に対して、魚の養殖は、自然の海に浮かべた生簀で行われることが多く、台風で生簀が壊れて逃げたり(一度逃げた魚を捕まえることはほぼ不可能ですよね)、赤潮などで全滅したり、大きい魚が小さい魚を食べてしまうことによる数の減少(それほど大きさが違うわけではないので、大抵の場合、大きい方の魚ものどに詰まらせて死んでしまうようです)もあるとのことです。飼育期間が長いほどこうしたリスクが高くなりますよね。
その他、餌のコストなどの課題もあり、養殖業の拡大は一朝一夕にはいかないようです。
そうした中、くら寿司では、付加価値の高い「オーガニックはまち」の養殖や、より効率的な餌やりを実現するAI給餌の実験を開始するなど、国内の養殖拡大へ向けた取り組みを、漁業者の皆さんと共同で開始しています。
こうした取り組みによって、これからもおいしい魚をリーズナブルな価格で提供していきたいと思っています。
2019年4月に始まったこの連載が、『お魚とお寿司のナイショ話』(税込み990円)として書籍化され、2月19日に発売されました。
ご家庭や職場、学校などでのちょっとしたコミュニケーションのきっかけになるネタが満載です。書店やネット書店のほか、全国のくら寿司のお店でも販売しています。
○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長
※AERAオンライン限定記事