また、ある夫婦の場合、ともに会社員で、保育園への送りを夫が担当。その日は、早く出社する必要があるのに、子どもの機嫌が悪く、支度に手間取りました。妻も急いでいて助けてもらえません。徐々に焦りとイライラが募り、夫は妻に対して大きな声で怒鳴り、イライラをぶつけてしまいました。妻に怒鳴るのは初めてだったそうです。
育児への意欲が高い父親は、時間に追われることに加え、「仕事に力を注げない」「仕事の評価が下がるかも」といった焦りや不安を抱きがち、仕事と家庭の両立に苦労しています。その状態が続けば、メンタルヘルスが損なわれるのも不思議ではありません。
竹原さんは、夫婦のメンタル不調が子どもへ影響することも懸念しています。
海外のさまざまな研究で、父親の産後うつが、「子どもへの本の読み聞かせの減少」「体罰の増加」など父親の養育行動に影響し、子どもの向社会性(相手に共感し、相手を優先させる心情・行動)の低下、多動、問題行動、情緒不安、言語発達の低下、激しい夜泣きなど、発達・発育に影響するとされました。最近では、思春期になったときに、子どもがうつなどになりやすくなるのではないかと検討が進められています。
「母親が大変だから、父親も頑張って! というのが、今の日本の社会です。2015年、内閣府は、父親の一日の家事・育児の時間を2時間30分に延ばすという目標値を出しました」(竹原さん)
この目標値は、「平成23年社会生活基本調査」をもとにした統計資料が一つの参考になっていると考えられます。行動の種類別の平均時間を海外9カ国と比べており、父親の一日当たりの「家事と家族のケア」の時間が、スウェーデンが最も長くて3時間19分、フランスが最も短くて2時間22分であるのに対し、日本はそれよりさらに短く1時間15分でした。
「仕事をしている父親の視点から考えると、単純に『家事と家族のケア』の時間のみで父親が家族のために費やしている時間を評価するのは不十分なのではないでしょうか。日本の父親の仕事関連の平均の時間は7時間57分、通勤時間は50分で、9カ国より多く、自由時間は2時間33分と9カ国より少ない。そこで、仕事関連の時間と自由時間を含めて試算してみたら、日本の父親が家族のために費やしている時間は、海外9カ国でもっとも多くなるのです」